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御宿かわせみ 初春弁才船
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著者
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平岩弓枝 | |||||
出版社
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文藝春秋 | |||||
定価
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本体価格 1095円+税 | |||||
第一刷発行
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2001/11/30 | |||||
ISBN4−16−320570−5 |
宮戸川の夕景 大川が宮戸川と呼ばれるあたり、竹町の渡しの本所側に肪ってあった猪牙に半裸体の女の死体が流れついていたのは、江戸にこの冬一番の霜が降りた朝のことであった。 なにしろ、湯もじ二枚の若い女の殺人事件なので、忽ち、瓦版も出たが、神林東吾がその話を聞いたのは深川長寿庵の長助からであった。 で、なにかあったのかと近づくと、「若先生、滅法、朝晩、冷えて参りまして……」 「只今、お帰りで……」 人柄は悪くないし、仕事熱心な男なのに、体が弱いというのは泣き所で、上司の中には、「あいつ、まだ休んでいるのか」と非難がましくいう人もいて、東吾は内心、案じていた。 今日、立ち寄ったのも、あまり周囲に気がねをせず、静養するようにというためだったが、当人にしてみれば、なかなかそうも行かないに違いない。 が、そんな話は長助にも出来はしない。 長寿庵のほうへ歩き出しながら長助がいい、東吾は、はじめて瓦版が猟奇的に書き立てたというその事件を知った。 「いえ、今のところ、お上に届け出た者もございませんそうで……」 「若いのか」
それにしても、なんで裸にしたのかがわからないと長助はしかめっ面をした。 どっちみち殺すのだから、なんでもいいようだが、人情でもう少し、ましなものを使いそうなと長助は苦笑した。 「この節、情のねえ連中が増えているからなあ」 |
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