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女王の百年密室
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著者
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森博嗣 | |||||
出版社
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幻冬舎ノベルス/幻冬舎 | |||||
定価
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本体価格 900円+税 | |||||
第一刷発行
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2001/12/15 | |||||
ISBN4−344−00905−3 |
上品な小都市ほ、河でくぎられた祭りの平原の向うで、地平線に夢の崖を刻みつける。
犠牲になるものを笑ったけれど犠牲になるものは幸いだった夢。 壁。 息。 体力は落ち、気軽に立ち上がれる状態ではなかったけれど、不思議に焦ってはいない。 それが僕の傾向だ。 雷。 あらゆる生命を怯えさせる共振の波長。 長く一直線に駆け抜けるような響き。 何だろう? 飛行機ではない。 僕は、夢から既に醒めていた。 その歩調には、ユーモラスなリズムがあって、僕の大好きなロイディだとすぐにわかる。 彼が戻ってきたのだ。目を開けてみる。 「あれ?雷が鳴っていなかった?」 「そうかな、それにしては、なんだか低い音だったんじゃない?」 「つまり、何?」 「見えなかった?」 「お腹が空いたよ、ロイティ」 そんな悠長な口がきけるのも、ついさきほど、この川の水を思い切り飲んだあとだったからだ。 ただただもう喉が渇いて、苦しかった。 水分が不足するとこうなるのだな、と最初は簡単に考えていたのが、どんどん酷くなって、精神にまで余裕がなくなってしまった。 もう三日も、僕は何も食べていない。 こんな状況になるなんて、想像もしていなかった。 僕の場合、有能でも悲観的でもないから、やっぱりしかたがない。 おそらく、予備パッケージに交換するときに、一瞬のパルスでアクセラレート・センサがリセットしたのか、それとも僕の躰の静電気のせいで、コア・システムのどこかでペキュリアリティが飛んだのか、可能性はどちらかだろう。 ちゃんとボディ・アースはしてあるはずなのだけれど、カーボン・ファイバの耐久性なんて、高が知れている。 ただし、締切遅れによる諸々の障害、たとえば、編集部の上司との関係とか、将来の仕事 それが、もっと大きな危機に直面したおかげで、細やかな心配は、すっかり遠のいてしまったわけだから、これは一種のパラライザといっても良いだろう。 そう、死ぬときはきっと自由なんだって信じている。 人生なんてこんなものだ、と思う。 なんて原始的な悩みなんだろう。 「何をですか?」 「ありません」
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