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オー・マイ・ガァッ!
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著者
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浅田次郎 | |||||
出版社
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毎日新聞社 | |||||
定価
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本体価格 1700円+税 | |||||
第一刷発行
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2001/10/10 | |||||
ISBN4−620−10650−X |
An Introduction ゲスト・ルームの電話がけたたましく鳴ったのは、私がギャンブルに疲れ果ててカジノから戻り、シャワーも浴びずにベッドに倒れこんだとたんだった。 ラスベガスに不作法な知り合いはいないから、その電話はたぶん日本とアメリカの時差を数えまちがえたか、さもなくばてんで計算していない編集者からのマヌケな連絡だと思った。 負けが込んでいるところに、鬼のようなディーラーからダメ押しのB・J三連打を浴びせかけられ、ほとんど生きる自信さえなくして泣き寝入りしたとたんの電話である。 しかし耳に飛びこんできたのは、私よりもっと興奮した、金切声の英語だった。 女の声は立て続けに三度、そう叫んだ。 瞼をこすると、ホテル・ベラッジオのアッパー・フロアから眺めるテンコ盛りの夜景が眼下に迫った。 「何があったかは知らんが、僕は今、その神様を心の底から呪っている。もしまちがい電話でないのなら、まず名前を言いたまえ」 「あたしね、たった今、大金持ちになったの。デザート・インの8000スクエアフィートもあるスイート・ルームにいるのよ。すぐこっちへ来て乾杯をしてちょうだい。もちろんタクシー代は払うわ」デザート・インはラスベガス・ストリップの北にある超高級ホテルである。8000スクエアフィートのスイートというのが、いったいどんなものかは知らないが、要すみにかつてハワード・ヒューズが住んでいた部屋のことであろう。これはきっと、お茶っぴきのコール・ガールが考えついた苦肉の策にちがいないと私は思った。 「あいにく僕は、バンジョーを持って出かけるほどヒマじゃないんだ」ジョークを少し考えてから、スザンナはヒヤッ、ヒヤッと笑った。 「残念だがスージー、僕は君のことを良く知らないんだ。パーティに誘うのなら、もうちょっと親しい人にしてくれるかな」 「なるほど。それで、さして親しくもない僕にまで電話をかけたというわけだね。ともかく君の幸運を祝福しておくよ。おやすみ」 ライト・アップされた白亜のシーザース・パレス。 女が私を呼び寄せようとしたデザート・インはさらにそのまた先である。 客に呼ばれるのではなく客を呼ぶという発想は、まあ大したものだけれど。 |
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