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とっておきの作品集
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著者
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出版社
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マガジンハウス | |||||
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定価
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本体価格 1300円+税 | |||||
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第一刷発行
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2001/08/23 | |||||
| ISBN4−8387−1308−8 | ||||||
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409ラドクリフ 1 その部屋は、窓がとても大きかったので、晴れた日には部屋じゅうが白っぽい日ざしであふれた。 まじめた留学生である私が、そんな眠りを眠れるのは、土曜日だけなのだ。 私はベッドの中でまるくなったまま息をひそめ、ノーラがあきらめて階段をおりていくのを待った。 私の期待をよそに、ノックはだんだん強くなる。 明け方までどんちゃん騒ぎをしていたくせに、なんと晴れやかな顔をしているのだろう。 「フランクはやさしいけれど能なしよ。あんなの、エィミにあげて正解だったわ」 ノーラが上目づかいに私をみる。またか、と私は思う。「リチャードをどう思う」「いいと思うわよ。背も高いし、ハソサムだし」「それにスポーツマンなのよ」ノーラがすかさずつけ加えた。彼女は恋多きひとなのだ。きのうのパーティでリチャードがかけてきたモーションについて、あれこれ報告してくれるノーラは、まるではじめて恋をした十代の女の子のようにはしゃいでいる。 恋にこりたい人である。「よかったじゃない」彼女の話が一段落ついたところで私は言った。起こされたことの腹いせに、彼女がいちばん言ってほしいことは言ってあげないのだ。フランクよりいいわよ、とは。「フランクよりいいわよね」私はふきだした。待ちきれずに自分で言ってしまったノーラが可愛くて、思わず彼女を抱きしめてしまう。 「幸運をいのるわ、今度のはね」ありがとう、と言ってノーラは微笑み、私のほっぺたにキスをした。 台所で、シリアルにミルクをかけて食べていると、オーヴンから甘い匂いがただよってきた。ノ それはいかにも東欧的な、上品で素朴なお菓子だった。 「ナツミ、きょうはでかけるの」ケーキをオーヴソから出しながら、ノーラがきいた。 一ドルで観られる学生会の自主上映フィルムは、清貧の留学生のデートにはもってこいだった。 きのうだって大騒ぎをしたばかりなのだ。
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