ロール・プレーイング(Role-playing)
実際の場面を想定し、さまざまな役割を演じさせて、問題の解決法を会得させる学習法。
役割実演法。
名前=カズミ 10/08 20:15
タイトル:ショック!
成績が下がっちゃいました。
自分ではチョーがんばったつもりだったから、返ってきたテストを見てビックリ!
呼び出しくらっちゃったよ。
なんか、おかしくない?
だってカズミはそんなさぼってなんかいないんだよ。
もっとさぼって遊んでばっかりいるコがいっぱいいるのに、なんであたしばっかり成績下がって、ヘンじゃない。
お父さんは真面目にやってればいつかはいい結果が出るって言ってたけど、そんなのやっぱりウソじゃない?
なんかすっごくムシャクシャして、寝らんないです。
名前=お父さん 10/08 23:38
タイトル=元気を出して
カズミが今度のテストの前に頑張っていたことは、お父さんもよくわかっている。
結果が良くなくて残念だった。
でも、真面目にやればいつかは良い結果が出るというのは、けしてウソじゃないよ。
カズミの目にはさぼっているように見える同級生も、他人の目には見えないところで頑張っているのかもしれない。
そう考えてみることはできないか。
何より、自分がどうしているかということじゃなく、他人と比べてどうかということばかりを考えるのは、お父さんは間違っていると思う。
呼び出しをくらったというのは、担任の先生に?
そろそろ進路相談もあるだろうし、三者面談ということなら、できればお父さんが行きたいと思う。
詳しいことを教えて下さい。
あまりがっかりしないように。
1
軽いノックの後、会議室のドアが開いた。
武上悦郎は立ち上がった。
パイプ椅子が床をこすって軋んだ音をたてた。
「お久しぶりでございます」
武上が声をかけるよりも先に、石津ちか子はそう言って、ドアのそばで丁寧に頭をさげた。
しかし、顔をあげたときにはもう笑っていた。
堅苦しい雰囲気は、まったくなかった。
「十五年ぶりになりますか」
長い机を回って彼女の方に近づきながら、武上も笑顔で応じた。
武上につられるように椅子から立ち上がった徳永は、その場で興味深そうに様子を見ている。
徳永とは対照的に、ちか子と一緒に会議室に入ってきた若い婦警は、きりっと姿勢を正して一歩後ろに下がった。
緊張している 。ゆうべ「昨夜、古い日記をひっくり返してみたら、ご一緒したのは十五年と八ヵ月前のことでした」
ちか子はふっくらとした頬を緩めて、武上に右手を差し出した。
二人は握手した。
「本当に昔のことになるんですね。でも武上さんはご活躍で何よりです。ご家族の皆様もお変わりありませんか?」
「おかげさまで元気にしています。家内があなたにくれぐれもよろしくと」ちか子は嬉しそうだった。
「奥様に教えていただいたジャガイモ入りのオムレツは、今でも我が家の人気料理ですよ」生真面目な婦警の顔にも、ちらりと笑みが浮かんだ。
ちか子は彼女を武上に紹介した。
「杉並署警濯課の淵上美紀恵巡査です」淵上巡査は踵を鳴らして敬礼した。
「淵上です。よろしくご指導をお願い申しあげます」長身である。
一七〇センチ近くあるだろう。
引き締まった身体つきは運動選手のようだ。
「事件の後、所田家周辺のパトロールを強化した際に手伝ってもらいました。わたしと一緒に泊まり込んだこともあって、一美さんとはよく話もしています。一時は登下校の送り迎えもしたんでしたね?」ちか子の問いに、淵上巡査はきびきびと答えた。
「はい。数日のことですが」「よろしく頼みます」武上はうなずいた。
「今日は知った顔のあった方が、一美さんにとってもいいだろうから」
「はい!」
機敏に返答をしつつも、武上の丁寧な口調が意外だったのだろう、思わずという感じで淵上巡査ははにかんだ。
武上には彼女と同年代ぐらいの娘がいるが、これがおよそゆりかむなどということとは無縁の娘なので、巡査の初々しさが心地よく感じられた。
「下島課長は?」徳永も交えて、一同は会議室の椅子に落ち着いた。
武上の問いに、ちか子が答えた。
「今、署長室です。葛西管理官からお電話だそうで」ちか子はちょっと首をすくめた。
「念押しですか」
「そうですね。でも、葛西管理官は最初から寛大な感じでしたから、心配する必要はないんですよ。むしろ立川署長が神経質になっておられるようで」
「無理もないですって」徳永が口を開いて、いかにも面白そうにくっくと笑った。
「こんなの前代未聞ですからね」
「そういうあなたは、けっこう乗り気だったじゃありませんか」ちか子は気を悪くした様子もなく切り返した。
徳永との付き合いはこの数日のものだろうが、すっかりうち解けた様子だ。十五年と八ヵ月のあいだに、おそろしくいろいろなことがあったであろうにもかかわらず、ちか子の人柄は、若いころとほとんど変わっていないのだと、武上は思った。
そういえば、本庁の放火捜査班にいたころの彼女の通称は、"おっかさん"だったそうではないか。
「まあ、面白そうですから」まだ笑いながらそう言って、徳永は首をすくめた。
「という言い方は不謹慎だな。失礼しました」ちか子が微笑した。
「ところで、外で待機の方とは─」武上は素早く応じた。
「連絡しました。もう配置についてますよ」
「武上さんの班の方だそうですね」
「鳥居といいます。真面目な男ですから、信用してもらって大丈夫です」会議室の内線電話が鳴った。
淵上巡査がさっと立ち上がり、受話器をとって応答した。
すぐにこちらを見て、「下島課長が、署長室に来ていただきたいとのことです」
「じゃ、行きますか」両手でぽんと膝を叩いて、武上は腰をあげた。
「興行主へのご挨拶ですな」これもまた不謹慎な発言だったが、武上はわざと言ったのだった。
それは皆にも通じていた。
気楽そうにふるまっていても、実は誰もが身構えていることは、よくわかっていた。
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