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ハリウッド・サーティフィケイト
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著者
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島田荘司 | |||||
出版社
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角川書店 | |||||
定価
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本体価格 2100円+税 | |||||
第一刷発行
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2001/08/10 | |||||
ISBN4−04−873321−4 |
第一章パトリシア・クローガー・ケース 1 LAPD、重要犯罪課。 目の下が異様に黒ずんでいる。 女の髪を後頭部で鷲掴みにしているらしい男の手も、わずかに見えてくる。 映画の一場面のようだったが、どこかが違っている。 ヴィデオだ。第一彼女は、デビュー以来こんなに弱々しい物腰をスクリーンに晒したことはなかった。 「ヘイ、パティ、世界中の君の崇拝者のために、何かメッセージはないのかい」 「どうしたい、今こそ女優魂を見せてくれよパティ。今夜も、アカデミi助演女優賞の演技を頼むぜ」男の声とともに、彼女の髪が解放される。 カメラがさらに引き、すると女優の全身が映った。 そして手は後ろに廻されている。 その下には草があり、芝生に見える。 「おーやおや、なんてがっかりさせるんだいパティ、『女検事ジョディ』で見せていたあの格好いい君は、あれはただの演技だったのかい,え?どうなんだ。なんてそらとぼけた女たんだい。ずっと君を崇拝し続けてきた男を、失望させないでくれよ。銃を前にしても微動だにしなかった女検事ジョディ・オブライエンは、あれは君自身とは何の関係もない、ただのセルロイドの幻かい。しっかりしてくれ、ガッツを見せろよ。ええパティ、だらしないぜ。死が恐いかい?」すると有名女優パトリシア・クローガーは、激しく首を縦に振った。 しかし声は出せない。泣いているからだ。 「おやおや、がっかりだねパティ、アソグロサクソンのプライドはどこに行った?ええ?有名女優のプライドはどこだい。そうかい、だがぼくは慈悲深い人間だからね、君のために少し考えようじゃないか。でも、はて、君に何ができるかな?ぽくのために。え?何をして見せてくれるっていうんだい、ぽくのために」 しかし泣きじゃくりながらなので言葉にならない。 「何だい、聞こえないぜパティ。NGだ、もう一度!言っとくが、これは監督命令だぜ」 「ぽくの望み、それは世界中の映画ファンの望みでもあるんだぜ。そうさな、ああ、うん、そうだ、君の名誉さ。君が独占している名誉を、ごっそりこっちに返してもらおうじゃないか。そうさ、返してもらおう。もともと君のものじゃない、それはわれわれから少しずつ君が奪ったものだ。理不尽にも、君がわれわれ庶民から奪ったものさ」パティは、後ろ手にされた半裸の体を芝生の上に折り、また泣きはじめる。 男のいい気な饒舌に、あらためて絶望を感じたのだ。しかし彼は、まるでおかまいなしに続ける。
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