草津



 1 

 実は草津には一度もいったことがなかった。

これをみんなにいったらみんなは驚いていた。

みんなが驚くことが僕には驚きだったのだが、それほどみんなは草津に一度くらいはいったことがあるのだ。

しかし草津はそれほど便利な所ではない。

きっとみんなは車でいっているのだ。

僕の今日までしていた旅というのは電車にのってボーッと外に流れる景色を見ているだけだ。

それでまあ、特に目的地などというのもなく、ついたところでぶらぶらする、近くに何かあるというのならちょっといってみよう、というくらいのものだ。

何しろ貧乏旅行なのだ。

僕が地方の駅周辺や、駅から歩いていける街周辺にくわしいのは意味もなくそんなとことろをぶらぶらしていたからだ。


 先月、僕はMという友人に日帰りで伊香保温泉に連れていってもらった。

まあ、なんとも寂れた温泉街で昔は旅館だったと思われる廃虚がいくつもあった。


 今月、僕はSという友人に草津温泉の招待券をもらった。

一泊二食。

これは絶対に行こうと思った。

その券をもらったのが4月3日とかの事で、招待券は7月まで有効だったが、僕はこの4月9,10に行ってきた。

草津までは電車で行くと片道3260円。

それで群馬県にある長野原草津口というわけの分らない駅で降り、さらにバスに乗る。

バスは670円で草津温泉まで行く。

この交通費は昔の僕ならいけないが、思ったよりは安い。

というのは僕はだいたい青春18切符で考えるからだ。

御存じの通り青春18はJRの各駅停車なら一日どこまで乗っても2300円だ。

これは遠くにけばいくほど得をすることになり、根性のある人は博多までも2300円で行く。

僕は先日富士吉田まで行く時もそれを使ったが、富士吉田はじつはJRで行くのではなく、大月から富士急行に乗り換える。

それで吉祥寺から大月までの往復で、3000円くらいだからそんなにとくとは言えない。

むしろ大月から富士吉田まで1000円くらいするから、青春ではそれほど得とは思わない。


 まあ、でも絶対にそこに行くのなら少しでも安いほうがいいので、買うべきだとは思う。

草津も3260円のところが2300円になるわけだから往復すると1800円違う。

そう考えると、僕は絶対に草津に行きたいわけだから青春18で行った方がいい。

1800円あれば、今回草津の片岡鶴太郎美術館の人(中はもちろん入りませんでした)にすすめられたまずいそば屋の600円も後悔しないし、さらにバスの片道分も浮く(というかわざわざまずいそば屋のことを書かなくても、バス代の往復が浮くといったほうがいいかな)。


 しかし僕は青春18をこないだの富士吉田にいった時に使い切ってしまったのだ。

おまけに青春18は3/31で発売終了だ(使用は4/10まで)。

それで金券ショップめぐりをした。

吉祥寺、なし。

新宿、なし。

それで中野に穴場といわれている金券ショップにいった(そのとき青葉でラーメン食べた)。

次にwebの掲示板に穴場と書かれた新橋に行く。

ない。

この吉祥寺-新宿-中野-新橋で、往復すると、すでにまっすぐ青春18ををかわずに買った3260円のほうが安いことに気がついた。

そうして諦めて帰ろうとして、最後の望みで寄った東京駅の近くの金券ショップで、最後の一枚を発見した。

バラなので2400円と100円高かったが、とにかく嬉しかった。

旅に出る前の日の事だ。

2 

 出発の日は朝7時ごろに家を出たいと思ったけれど、7時過ぎに起きた。

しかしてきぱき行動して、途中上野まで行かずに新宿で降りて埼京線で赤羽までいったら(というのは上野を出た電車は赤羽にくるから時間がうまくあえば近道なのだ)、何と一本早い快速に乗れた。

それで高崎に二時間後につく。

高崎では西口を出てまっすぐ行き、新町という交差点を左にいくと「栄寿堂」というカツ丼の店がある。

ここはカツ丼が380円(A丼)だ。

店内はカウンターだけで歴史も古いが、まさにカツ丼の吉野屋みたいな感じだ。

店で食べているとテイクアウトの客が次々とやってきてテイクアウト専用のカウンターで待っている。

とにかくここは誰がおいしい。

高崎には実はソースカツ丼という名物があるのだが、ここは普通のカツ丼だ。

でもここはいいよ。


 高崎を出て、長野原草津口を目指す。

渋川まではいつも新潟方面にいっている線路だ。

渋川から吾妻線という路線に入る。

こっちはまだ桜が咲いている。

散りはじめという感じ。

長野原草津口には13時ごろ着いた。

ここでバスに乗り換え、25分後に温泉街に着く。

バスは遠い。

どんどん山道を登っていき、桜が満開の所を抜け、桜がつぼみの所までいった。

山道を抜け、急に草津温泉周辺は賑やかになる。

バスがつき、バスを降りた。

寒かった。


 バスターミナルの周辺には何があるのかよくわからず、どこをどういけばいいのか分らなかったが、うろうろしていると僕達(僕と同行したY君)が泊まるホテルの送迎バスがあったのでとりあえずそれに乗ることにした。

それでホテルに行き、チェックインを済ませ、部屋に荷物を置き、ホテルを出て温泉街に歩いた。

草津の温泉街のシンボルは湯畑(ゆばたけ)という所で、そこにはまさにお湯の畑がある。

知らない人は何かで調べればすぐに調べられると思うよ。

とにかくけっこう広いところにお湯がたまっていて、それが何本かのキでできた木管みたいな・・ううん、うまく説明できん。

調べてくれ。

でも、まるで湯葉がとれそうな感じだった。

しかし何より驚いたのはその硫黄臭さだ。

あたり一帯、ゆで卵のにおいだった。

僕達は、まあぶらぶらした。

じっさい草津は吉祥寺より狭い街だと思う。

湯畑から西の河原といわれる所までの一キロくらいの道が温泉街ということになっている。

まあそのまわりもぶらぶらした。

温泉饅頭をたくさん板のお盆に載せてそれを道行く人に一個食べさせてくれる太腹の試食もあった。

二軒あった。

一軒目はお茶もくれる。

二軒目はなんかキャッチセールスをやってもくっていけそうな詐欺オーラを出したおじちゃんたち。

どっちにしても僕はごちそうになる。

ごちそうになるだけなって、買わないのは気弱な人には技がいる。

向こうはおみやげに買ってほしいわけなので、まだこっちにきたばかりで一週間はこっちにいると言えばいい。

これは函館の朝市でも同じこと。

これは貧乏旅行でつちかった知恵だ。


街をぶらぶらしているといたるところに小さな小屋があり、そこは何と無料で入れる共同浴場で、何と草津にはそれが市内に19ケ所もあるのだ。

まあ、草津ではそれが一番びっくりしたかな。

西の河原は公園と言えば公園で、小さな川のまわりの遊歩道といった感じだ。

川は温泉から流れていて、川の水を触るとけっこうぬるい。

これは知床でもそうだった。


 また湯畑に戻り、ちょっと歩いて大滝の湯というのに入る。

800円とタオルを200円でかったので1000円かな?それが今回の草津最初の湯だった。


 いい湯だった。

なんというか、あったまるという感じ。

外の露天風呂にもいき、下の合わせの湯という所もいった。

草津名物の湯揉みという木の板でお湯をかき回すのはここで行われるらしい。

大滝の湯とかいてある木の板がたくさんおいてあった。

これは今はけっこう観光化されている、見たいし体験したいとも思ったが、時間が決まっていてその時間までいる気にはなれない。

この湯揉み、また時間を計って一斉に湯に入る時間湯という習慣はここ独特なものでとにかく草津は全国の湯の中でもかなり温度が高いらしく、かき回すことによりさめさせるのだそうだ。

それで時間湯もそのときにみんなでいっせいに入るらいい。

よくわかんないけれど、日本の温泉の父といわれるベルツ博士が考えたそうだ。

伊香保でも草津でもベルツ氏の銅像はあった。

僕はそれまで知らなかった。


 温泉を出てホテルに帰り、夕食を食べ、Y君とボーリングをした。

温泉プールもあったが入らずに夜中に大浴場にいった。

ここは大きなホテルで大学生のオリエンテーション旅行がきてい。

これは入学した大学生が親睦を深めるために自己紹介もかねた旅行で僕も思い出がある。

この時に僕は今、一緒に事務所をやっている芦沢君にあったのだ。

僕は大浴場に入ってきた学生達の話をききながら自分の学生時代のことを思い出した。

僕は小金井出身で、芦沢君は小金井の教習所にいっていたんだって、その話から始まった。

芦沢君はハーフで、君ハーフかと思ったよと僕がいったら、ハーフだよといった。


そんなことや他の友だちのこととかを思い出し、みんな何やっているんだろうと思いながらその日は寝た。

3

ホテルの朝御飯はバイキング形式で、和食と洋食がある。

僕は健康的になりたいので、というか不健康だとは思わないけれどなんだかそんな強迫観念があるんだよね、和食にしようと思ったけれど、僕の大好きなスクランブルエッグとソーセージにやられてしまい。

思いっきり洋食にした。

思いっきりで思い出したけれど、思いっきりテレビって、けっきょく何を食べてもいいんじゃあ、て感じだよね。

こないだ何かにいいとかいって、みのもんたが紙ををめくって、ソーセージって出てたぞ。

普通に食べてればいいじゃんてことだよね。

まあそれはいいとして、朝はそんな感じで思いっきり食べた。

チェックアウトは12時なんだけど、僕は10時40分にまた風呂に入りにいった。

そしてチェックアウトで街に行く。

ホテルの人に電車の接続時間が書いてあるの紙をもらう。

すると草津と東京は近いので、ここを夜の7時半に出ても東京にはその日じゅうには着くというのが分り少し安心した。

しかしできるのなら、まあ2時くらいにここを出て、途中、また高崎とかに寄りぶらぶらして、まあ9時ごろ東京に帰りたいという感じだった。


 とりあえず湯畑に行く。

しかしここは本当に臭い。

温泉なので嫌なにおいではないけれど、ずっとそこにいると頭がくらくらしてくる。

「草津」という地名は「臭い」から来ているのではないかと思ったほどだ。


 湯畑の周辺を散歩する。

足だけ浸かるところがあって、足をあっためた。

寒い日だった。

草津を昨日今日歩いていて思ったけれど、ここは不倫ぽい40代(女は30代とか)くらいのカップルがとても多かった。

 坂の途中に小さなストリップ劇場があり、そこにそこで踊る「タレント」の写真が出ていた。

二人がフィリピン人みたいな感じで、あと一人が日本人だった。

温泉の街はストリップ小屋が似合う。


 商店街を抜けて西の河原のほうへ行くと途中のお土産やの前にある公衆電話でさっきのストリップの写真に出ていたフィリピン人が電話をしていた。

西の河原の途中でまた饅頭を食べる。

昨日少し喋ったのに、何も気付かないで、同じ会話をして売ってくるから少しおかしかった。

まっすぐ行くと片岡鶴太郎美術館がある。

入場料950円。

鶴太郎は絵も人もそんなに好きではないけれど、じつにおじさんとかに絵が好かれそうなのは分る。

そういえば昔よく笑っていいともで絵を書いては見せていたけれど、あれはアピールだったんだな。

片岡鶴太郎美術館の横にボロボロの廃虚があったけど、そこはキン・シオタニ美術館にしちゃあダメかなあ?
 片岡鶴太郎美術館のお土産屋に入りトイレに行く。

出ると、どこかのおばさんが「この辺でおいしいそば屋はない?」と聞いていたらお店の人が自信をもって伯光亭(だと思う)だと言うから、ちょっと僕も気になって、あとで行ってみたが、参った。

出てきた瞬間にダメだと思った。

そうめんかと思った。

僕は黒くて太くなければだめなのです。

まあいいや。

草津はまた行くだろうけどあそこはもう行かない。

店には片岡鶴太郎美術館のポスターが貼ってあった。

つるんでるな。


 その日はとても寒く、僕達は身体が冷えてきたので無料の共同浴場に入ることにした。

湯畑の近くに「白幡の湯」という源頼朝が見つけたという温泉があり、そこは無料なのでそこに入ろうということになった。

しかし街にけっこうあやしい人がいたので財布とかをとられる心配もあったのでY君と順番に入ることにした。

僕は風呂は早い。

熱いのもあまり得意ではない。

でも熱い方がいいお湯だということもわかる。

入ってすぐに身体があったまればもうそれでいい。

なので僕が先に入ることになった。

いやあ、まったくいい湯だったよ。

それで温泉を出てY君にバトンタッチ。

僕はその間中、湯畑の向かいにあるイタリアントマトでアイスコーヒーを飲み、窓の外に見える観光地の景色や不倫の人たちを見ていたり、メールで小説を書かないみたいにいわれたので、その気になったりしていた。

そうこうしているうちに三時半になった。

いやああそこはいつまででもいることができるよ。


 次のバスが4時40分だったので4時から行われる草津名物「湯揉みショウ」を見ることになった「湯揉みショウ」が終わるのは4時25分というからバスには間に合う。

バス停までは5分でいけるのだ。

それで4時になり「湯揉みショウ」を見た。

まあ何ということもなかった。

着物を着たおばちゃんたちがリズミカルにお湯をかき回すのだ。

それがおわると会場の客にだれかやってみたい人!と募集して、おばちゃんたちが我こそはと手をあげて、その素人湯揉みショウが始まったが、みんなのリズム感の悪さには笑った。


 さて、湯揉みショウが終わり、バス停についたのが4時29分。

バスが出るまであと11分。

僕はもうひと風呂はいりたいとひそかに思っていた。

でもそれをY君にいうとY君は時間かかるし、危険だからだめだというだろうから、僕はY君に「ちょっとこれ持ってて」と財布とかが入っている小さなバックを渡して、ちょっとバス停の周りをうろつくと、何と「瑠璃の湯」というのがあるではないか。

時計をみると4時31分。

僕は速効風呂に入り、ざぶんと浸かり、つかの間の至福を得て、すぐに風呂から上がり、身体を拭き終わると4時36分。

バス停に戻ったのは4時37分。

Y君は火照った僕を見て、「まさかとは思ったけど」と言った。


 そんなこんなで草津に別れを告げ、よる10時には吉祥寺に戻った。

いい旅だった。

 4 

草津はよかった。

温泉には今日までたくさん入ってきたつもりだが、お湯が違うと思ったのははじめてだった。

「泉質主義」というコピーが色んなところで目に入ったがそれも納得いくと思った。


それで、草津でいくつか思ったことを帰ってからいろいろ調べてみた。


まず、草津は臭いから「くさつ」だと思った僕の説だが、これは当たっていた。

正確にはふたつ説があるのだが、有力なのがこの「くさうづ」が変化したもの、「くさうづ」とは臭い水のことだそうだ。

もう一つはよくは分らないが般若心経に草津という言葉があるらしいよ。

それからきているという説もあるけど、とにかくあの湯畑周辺を歩けば、臭いから草津だとしか思えないね。


 それからY君、温泉に入っている時に、誰かが「西のどこどこ東の草津って言われてるんだって」と温泉で話していたのを聞いたと僕に言ったが、僕はその「西のどこどこ」の西はどこなのかということが気になっていた。

これは、西は有馬温泉(兵庫県)というのが一番多いのだが、他にも西の別府、東の草津とかかれているところもあり、よくわからない。

しかし東が草津だということははっきりしていた。

僕自身、今日までいろんな温泉に入ってきたと思うが、「違うな」と思ったのは草津が初めてだ。

また、日本三名湯というのもあって、これはさっきの「有馬と別府、そして草津」というのが多いが、下呂温泉(岐阜県)も昔の書物に書かれているらしく、これもはっきりしない。

仙台のほうの温泉を入れているやつもある。


 とまあ、いろんなことがあったが、草津は本当にいい湯だった。

一泊二日ではあそこは足りない。

クロレッツのCMで「もう一泊しちゃいました」という不倫は草津の設定にちがいない。


 

 

 

 
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