プロローグ
狂牛病の「安全宣言」を憂う─―消費者はウソが嫌いだ!
政府にはもう、頼れない
◎そして、狂牛の第二号が出現……
「狂牛の第二号が出ました!」。
二O〇一年一一月二一日午前一一時すぎ、ある全国紙記者からコメント取材を受けた。
北海道北部・猿払村の酪農家から出荷された、ホルスタイン種で五歳七カ月の雌の乳牛が狂牛病「第二号」確実という。
反感、不信感は一挙に噴出した。
一〇月一〇日夜、東京で発覚した狂牛病"第二号"騒動でも、行政のトップである武部勤農水大臣と坂口力厚生労働大臣は信じられないドタバタ劇を演じている。
二五名の食肉検査所の職員が一次検査(エライザ法)の研修を受けているときに"クロ"と出た。
翌一一日昼の記者発表でマスコミは騒然。
夕刊は「狂牛病、"第二号"発見?」の大見出しで埋め尽くされた。
そこで慎重を期して二次検査(ウエスタンブロット法)で再チェックが行なわれることになった。
一二日発行の中央卸売市場「ニュース・リリース」には「厚生労働省は一〇月一二日に確定診断の検査を行なう予定。その結果判明は一三日の見込み」と明記。ところが両大臣は、この二二日を待たずに一二日深夜、突如異例の"シロ"会見。すでに内臓も枝肉もほとんど市場に出回って消費者が食べている。
”クロ”だった場合は回収不能。
そのときの消費者パニックは恐ろしい……。そこで見切り発車の"シロ"発表をしたのではと疑念を抱いてしまうのだ(テストは公正に行なわれたと信じるが……)。
さらに農水省データでは、一九八○年以降にイギリスから輸入された"肉骨粉"はゼロとされていた。
ところがイギリス側には九〇年から九六年まで三三三トンが日本に輸出された記録がある。
この食い違いもミステリーとしてマスコミが追及していた。
私は農水省側が「入っていない」と最初にウソをついたため、記録を廃棄したというのが真相だと推察する。
ところが武部農水相は「入力ミスだった」と苦しい答弁に終始。
入力ミスが七年も続くのか?
一事が万事、姑息なウソがさらに信用信頼を失墜させている。
さかのぼって一〇月二日の夕方、憲政記念会館の大食堂で「牛肉を大いに食べる会」が開催された。
武部、坂口両大臣をはじめ与党約二〇〇人の国会議員が、牛肉ステーキなどをパクついてみせ、内外の失笑を買った。
八月六日に発生した狂牛病の感染源すらまったく特定できていないのだ。
それで、どこが「安全」といえるのだろう。
農水省と厚生労働省は、一〇月一八日の全頭検査によって「もう日本の牛肉は安全」と"安全宣言"を出してしまった。
あの狂牛病の本家イギリスですら、いまだ安全宣言を出していないのに、パニック発生から一カ月余りでの安全宣言に、世界中が失笑、呆れている。
国内でも「信用せず」が五六%に達している。また四人に一人が「牛肉を食べなくなった」という(一〇月二八日、共同通信社調べ)。
私にはまったく驚きはなく意外性もなかった。
検査が始まって以来、狂牛がすぐに出現しないことのほうが不思議でならなかった。
いやもっと言ってしまえば、行政に不審感すらもっていた。
人工ホルモン剤を多用されて多量の乳をしぼりとられるホルスタインの雌が、栄養価の高いものとして動物性飼料(肉骨粉)をどんどん与えられている現状は、欧州の事情や日本の心ある酪農家・獣医からの情報で知っていたからである。
闇に消された"狂牛"は数知れない。
膿は徹底的に出したほうがいい。
原因は克明に追究されなければいけないのである。
私たち消費者には、安全に食する権利があるのだ。
事実が意図的に隠されたり、食品が闇から闇に流通したりしたなら、安全は保証されなくなる。
牛肉を食べるか否かは、消費者の自由であり、選択による。
そのためには、安全を手に入れる責任として、問題点を決してうやむやにさせない姿勢が消費者には求められる。
さて狂牛病の二頭目発生は、時あたかも本書の校了日(私や編集者の手を完全に離れる日)当日のことだった。
前作『早く肉をやめないか?─―狂牛病と台所革命』(三五館)の刊行のときにも同じようなことがあり、私は妙な因縁を禁じえないのである。
◎日本発、アジア第三次狂牛病パニック
ニ○〇一年九月一〇日の夕暮れ時、テレビの画面には脂汗にまみれた苦汁の表情の農水省畜産部長の顔が大写しになっていた。
「千葉県に、狂牛病感染の疑いの牛発見」と画面にテロップが流れる。
どの局のテレビニュースも同じ。農水省は狂牛病対策本部を緊急設置と報じる。
しかし、なんという偶然だろう。
私は、『早く肉をやめないか?』の執筆をすべて終え、ひと息ついていたところだった。
出版社の話では、翌日には印刷所の輪転機が回るという。
待った無しの前日に、狂牛病の日本上陸が明らかになるとは!
急遽「狂牛病やっばり発生!」と帯を書き直して、内部も加筆して印刷にすべりこんだ。
さまざまな状況から、「この秋には狂牛病の第一号は出てもおかしくない」と予測はしていたものの、ズバリ的中してしまったことに、不思議な宿縁を感じる。
しかし、汗まみれの畜産部長の引きつった顔に事態の深刻さを、あらためて痛感する。
あらゆるマスメディアがこぞってトップ報道。
それも、当然だろう。
しかし、問題の牛は八月六日に発見されている。
発表までの一カ月余りもの時間に、何があったのか?そして九月二一日の深夜、「やはり狂牛病だった……!」との報道がテロップで流れた。
農水省は問題の牛の脳組織を"狂牛病の本場"イギリスに送って、最終判定を仰いでいた。
検査を行なった英国獣医研究所の判定が出たのである。
ヨーロッパ以外での狂牛病確認は初めてであり、国内国外問わず衝撃波が広がった。
私の懸念どおり、事態は最悪のケースをたどりつつある。
日本からアジア全土に拡大する、第三次狂牛病パニックが始まったのだ。
◎ドタバタ"安全宣言"劇を繰り返す大臣たち
「ウソの上塗り」
「右往左往」
「危機管理の欠如……」
一連の狂牛病対策に、政府の対応のまずさを指摘する声は、数えきれない。
九月一〇日の農水省記者会見で、畜産部長が「焼却処分した」と発表した疑惑牛の胴体は、そのままレンダリングプラントに出荷されていた。
一四日夜の会見で全面訂正したのだが、国民の反感、不信感は一挙に噴出した。
一〇月一〇日夜、東京で発覚した狂牛病"第二号"騒動でも、行政のトップである武部勤農水大臣と坂口力厚生労働大臣は信じられないドタバタ劇を演じている。
二五名の食肉検査所の職員が一次検査(エライザ法)の研修を受けているときに"クロ"と出た。
翌一一日昼の記者発表でマスコミは騒然。
夕刊は「狂牛病、"第二号"発見?」の大見出しで埋め尽くされた。
そこで慎重を期して二次検査(ウエスタンブロット法)で再チェックが行なわれることになった。
一二日発行の中央卸売市場「ニュース・リリース」には「厚生労働省は一〇月一二日に確定診断の検査を行なう予定。その結果判明は一三日の見込み」と明記。ところが両大臣は、この二二日を待たずに一二日深夜、突如異例の"シロ"会見。すでに内臓も枝肉もほとんど市場に出回って消費者が食べている。
”クロ”だった場合は回収不能。
そのときの消費者パニックは恐ろしい……。そこで見切り発車の"シロ"発表をしたのではと疑念を抱いてしまうのだ(テストは公正に行なわれたと信じるが……)。
さらに農水省データでは、一九八○年以降にイギリスから輸入された"肉骨粉"はゼロとされていた。
ところがイギリス側には九〇年から九六年まで三三三トンが日本に輸出された記録がある。
この食い違いもミステリーとしてマスコミが追及していた。
私は農水省側が「入っていない」と最初にウソをついたため、記録を廃棄したというのが真相だと推察する。
ところが武部農水相は「入力ミスだった」と苦しい答弁に終始。
入力ミスが七年も続くのか?
一事が万事、姑息なウソがさらに信用信頼を失墜させている。
さかのぼって一〇月二日の夕方、憲政記念会館の大食堂で「牛肉を大いに食べる会」が開催された。
武部、坂口両大臣をはじめ与党約二〇〇人の国会議員が、牛肉ステーキなどをパクついてみせ、内外の失笑を買った。
八月六日に発生した狂牛病の感染源すらまったく特定できていないのだ。
それで、どこが「安全」といえるのだろう。
農水省と厚生労働省は、一〇月一八日の全頭検査によって「もう日本の牛肉は安全」と"安全宣言"を出してしまった。
あの狂牛病の本家イギリスですら、いまだ安全宣言を出していないのに、パニック発生から一カ月余りでの安全宣言に、世界中が失笑、呆れている。
国内でも「信用せず」が五六%に達している。また四人に一人が「牛肉を食べなくなった」という(一〇月二八日、共同通信社調べ)。
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