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イチローUSA語録
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著者
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デイヴィット・シールズ | |||||
出版社
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集英社新書/集英社 | |||||
定価
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本体価格 660円+税 | |||||
第一刷発行
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2001/12/19 | |||||
ISBN4−08−720123−6 |
はじめに わたしはケーブル・テレビを引くべきかどうかでひと春悩みつづけた。 圧倒的に勝ち試合が多いだけでなく、(マリナーズにとっては)まったく新しい、みごとなチーム・べースボールを展開しつつあった。 シーズン開幕から一〇日たったころ、わたしはラジオでオークランド・アスレチックス対マリナーズ戦の実況を聞いていた。 つぎのバッターがライトにシングル・ヒットを打ち、ロングがファーストからサードまで進もうとしたとき(比較的当り前の試みだ)、マリナーズの右翼手イチロー・スズキーメジャーリーグ第一号の日本人野手で、マドンナやシェールやペレと同じようにファースト・ネームだけで知られている─が、ライトの真ん中から三塁手に低い矢のような送球をして、楽々とアウトにした。 それから二四時間は、試合後のテレビ番組でも、ラジオのスポーツ・トーク番組でも、翌日の試合前のテレビ番組でも、誰もが"あの送球"ばかりを話題にした。 「イチローがサード・べースにコインを投げたかと思ったよ」 テレンス・ロングでさえつぎのように語っていた。 「打球がまっすぐぼくに向かって飛んできた。ぼくがアウトにしようとしているのに彼はなぜ走ったんだろう?」 イチローはグラウンドで超人的な離れ業人間業とも思えない送球や捕球や盗塁やヒット等を演じ、あとでそれについて質問されると、彼の答ときたら…驚くほかはない。 毎朝待ちきれずにベッドから起きだし、朝食をとってナタリーのお弁当を作る間に(その間彼女はアニメを見ている)、イチローが前夜のプレーについて今日語ったことを読んだ。 わたしはすぐれた運動能力にすぎないものに哲学的な意味を与えようとしていただろうか? これは異文化伝達の問題であって、わたしたち西欧人の耳には禅の公案のようにきこえるものが、イチローにとっては自明の真理であり、唯一可能な意志表示にすぎ わたしはそれを徹底的に分析することもできるが、そうはしたくない。 デイヴィッド・シールズ シアトル、二〇〇一年 01/4/12 AP通信 01/4/11、12 KIRO局のマリナーズ番組
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