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ぼくの心をなおしてください
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著者
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原田宗則 町沢静夫 | |||||
出版社
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幻冬舎 | |||||
定価
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本体価格 1400円+税 | |||||
第一刷発行
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2002/1/10 | |||||
ISBN4−344−00145−1 |
■目次
プロローグ 本書の効能にかえて 自分がそうなってみてから初めて知ったのだが、ぼくの身辺だけに限ってみても、実はうつの病に悩む入の数は、驚くほど多い。 ところがぼく自身が明らかに病的なうつ状態に陥り、通院、投薬の必要に迫られて、仕事も休みがちになってくると、身辺にいた何人もの人たちが、「実は私も今、抗うつ剤を服用してるんです」 「実はうちの父がうつでして、一緒に飼犬のペスまで犬小屋に引きこもりがちで」などと次々に打ち明けるようになった。 病気なのだから、それを後ろめたく思う必要はあるまいッ、と力強く言う人は、おそらくうつなんかとは無縁の、まことに健全な精神の持主なのであろう。 後ろめたく思う必要なんてないことは百も承知だが、どうしても後ろめたく感じてしまうのがうつなのだ。 この如何ともしがたい後ろめたい感じが、うつという病の周辺には常にまとわりついていて、それがために誰かに打ち明けることを妨げ、病院の敷居を高くし、薬の服用をためらわせているのだ。 もちろん自分自身の中にも、「認めたくなあい!」という強い思いがあって、何とかその後ろめたい感じをごまかそうとしていたふしもある。 そして一人で悩んだからといって病が快方へ向かうはずもなく、時間を追うごとに後ろめたい感じは次第に膨れ上かってきて、やがては仕事や日常生活にも支障をきたすほどに悪化してしまう。 自分以外の誰にも分からない後ろめたい感じが、胸の裡に膨れ上がっていくのを必死で堪えながら、「ほおら、こないだこんなに面白いことがあったんですう!」という内容の滑稽なエッセイを書く─―仕事とはいえ、これほど辛いことはなかった。 読者も友入も家族も皆が、ぼくに対して「面白さ」を求めてくる。 何もかもがつまらなくて、虚しくて、やりきれなかった。 だから必死になって一日中自らを煽り立て、何かの拍子に後ろめたい感じが鳴りをひそめる束の間に、大慌てで滑稽な文章を書いたりしていたのだ。 しかしながら自分の外側でユーモアを成立させればさせるほど、ぼくの内側にはそのもととなる「哀しみ」ばかりが堆積していった。 もちろんさらに症状が悪化して、三日も四日もベッドから起き上がれずにただじっと横になっているだけの状態に陥ったのも辛かったが、それ以上にうつの初期はキツかった。 ずいぶんと長い間、ぼくはそういうつまらない我慢をし続けてしまった。
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