日本の論点2002
 
  混乱のあとに来るもの─―世界が変わった─―日本が変わる!!─―21世紀初頭に噴出する重大論点を完全収録─―日本が進むべき道とは?─―日本人が持つべき見識とは?─―すでに選択肢は示された。第一線オピニオンリーダー100余人による激論!全論文書き下ろし!  
著者
出版社
文藝春秋
定価
本体価格2667 円+税
第一刷発行
2001/11/10
ご注文
ISBN4−16−503010−4

21世紀の日本の戦略とは

いまこそ新しい現実主義に目覚め、国家の座標を見直すべきとき

中西輝政

なかにし・てるまさ
1947年大阪府生まれ。
京都大学法学部卒、ケンプリッジ大学歴史学部大学院修了。
スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授などを経て、現在京都大学総合人間学部教授。
国際政治学を専攻し、文明史から見た世界秩序とアジアの国際関係を研究。
最近著に『本の「敵」』(文蟄春秋)、その他『大英帝国衰亡史』(毎日出版文化賞・山本七平賞)、『なぜ国家は衰亡するのか』『国まさに滅びんとす』『日本文明の主張』、編著書に『憲法改正』などがある。


新しい日本を創る「保守革命」二つの軸

すでに二一世紀が始まっているのに、この国の座標軸は狂ったまま、とめどない漂流の様相をますます深めています。
前代未聞の「バカ人気」を集めた小泉政権ですが、改革へ向けた動きも停滞を余儀なくされ、首相個人の「虚勢」も徐々に色あせてゆくと予想されます。

経済の低迷は一段と加速され、「失われた一〇年」が、このままでは「失われた二〇年」になりかねない情勢です。
米国の同時テロにより「新しい戦争の世紀」が始まった世界の中で、日本の安全保障は戦後を脱却できないまま、一層深刻な脅威にさらされています。

加えて、「教育の崩壊」現象も一段と進み、社会規範の深刻な崩壊と軌を一にして、奇妙な事件や不祥事があとを断ちません。
一体、この国はどうなるのでしょうか。

私はすでに早くから、これは日本という国の衰退の危うさを宿した流れであり、根本的な「国の基軸の立て直し」という視点からの取り組みが必要なところに来ているのだ、とくり返し論じてきました(たとえば『なぜ国家は衰亡するのか』PHP新書、『国まさに滅びんとす』集英社刊、『日本の「敵」 』文藝春秋刊、など参照)。

それは、この国の内政・外交の全般を含めた歴史的な「座標軸の転換」をめざす変革でなくてはなりません。
まさにそれは、二一世紀の日本を創り出すための「新しい革命」だと言えるでしょう。

私は、それには二つの軸が必要で、一つは経済や社会については効率と市場原則により忠実な構造への改革であり、もう一つは政治・外交、安全保障・教育などにおいて「国家としての基盤と価値観の確立」をめざすものでなければならないと思うのです。

それは端的に言って、戦後を乗り越えることをめざす「保守革命」と呼ぶべきものです。

二一世紀の日本が一日も早く「戦後」を乗り越えなけれぱならないのは、一つには、このままゆけば日本の衰退はいよいよ取り返しのつかないところにまで進む状況になってしまうからですが、もう二つは、米同時テロに見られるように「戦後日本」の存立を可能にしてきた世界の情勢が、二一世紀に入っていよいよ本格的に転換し、もはや後戻りしない趨勢がはっきりしてきたからです。

 

幻想にすぎなかった「国違の時代」

およそ一〇年前、冷戦が終って東西ドイツが統一したりソ連が崩壊して「平和な時代」の到来が唱えられ、"世界新秩序"が喧伝される時代がありました。
また、九〇年代を通じ世界経済はもちろんバブル崩壊で沈みっづけた日本は除いて一グローバリゼーションの進展でかつてない「繁栄の一〇年」を経験しました。

しかし、いま一〇年余り経って今後の世界をもう一度、新しい眼で→から見直すときが来ています。
同時テロによってアメリカ本国の「安全神話」が崩壊する前に、すでにアメリカにおける「ITバブル」がはじけて日米だけでなく、欧州やアジアの経済も落ち込みを速め、およそ三〇年ぶりの世界同時不況が始まろうとしている、と騒がれていました。

実際、今回の不況は七〇年代の石油危機のとき以来の「世界経済の危機」の様相を示していますが、もしそれが現状より深刻化すれば、テロ問題にとどまらず必ず世界の政治・安全保障の基本秩序にも甚大な影響を及ぼすことになるでしょう。

湾岸戦争から一〇年経って、すでにはっきりしたことは、中東和平は結局、「絵に描いた餅」になってしまったし、国連が世界秩序の中心として地域紛争を防止・解決するという、「国連の時代」イメージは、単なる幻想にすぎなかったということであろう。

イスラエルのラビン首相とパレスチナのアラファト議長が、中東和平の実現者としてノーベル平和賞に輝いたのは、つい昨日のことであった。
ノーベル平和賞と言えば、ピョンヤンを訪問して初の南北首脳会談を実現した韓国の金大中大統領を思い出すが、朝鮮半島情勢の難しさは今後増すことはあれ減ることはないでしょう。