REVOLUTION No.3
 
  君たち、世界を変えてみたくはないか? OKとりあえず オチコボレ男子 高校三年生の僕たち。武器は Money、Penis、頭脳、上腕二頭筋、そして、努力・・・。やってみますか。  
著者
金城一紀
出版社
講談社
定価
本体価格 1180円+税
第一刷発行
20001/10/1
ご注文
ISBN4−06−210783−X

僕が通っている高校は新宿区にある。
新宿区にはどういうわけか有名進学校ばかりが集まっていて、例えば、総理大臣を輩出している私立大学の付属高校や、東大進学率がバカみたいに高くて高級官僚を次々生み出している都立高校、それに、やんごとない筋の子女がお通いあそばす女子高、などがある。

僕の高校は昭和三十八年に力道山を刺したヤクザ、の舎弟、という一部のマニアしか喜びそうにない有名人を生み出したのが最後、総理大臣にも官僚にもやんごとない筋にもまったく関係せずに、新宿区の中で陸の孤島のごとくたった一校だけ存在している典型的オチコボレ男子高だ。

なんの因果か、有名進学校のほとんどは僕の高校から半径ニキロ以内にある。連中はご近所様の僕たちのことを、『ゾンビ』と呼んでいるらしい。
僕が聞いたところによると、『ゾンビ』というあだ名の由来は大きく分けてふたつあった。
僕が通っている高校は新宿区にある。

新宿区にはどういうわけか有名進学校ばかりが集まっていて、例えば、総理大臣を輩出している私立大学の付属高校や、東大進学率がバカみたいに高くて高級官僚を次々生み出している都立高校、それに、やんごとない筋の子女がお通いあそばす女子高、などがある。

僕の高校は昭和三十八年に力道山を刺したヤクザ、の舎弟、という一部のマニアしか喜びそうにない有名人を生み出したのが最後、総理大臣にも官僚にもやんごとない筋にもまったく関係せずに、新宿区の中で陸の孤島のごとくたった一校だけ存在している典型的オチコボレ男子高だ。
なんの因果か、有名進学校のほとんどは僕の高校から半径ニキロ以内にある。連中はご近所様の僕たちのことを、『ゾンビ』と呼んでいるらしい。

僕が聞いたところによると、『ゾンビ』というあだ名の由来は大きく分けてふたつあった。
教室を出て、学食に向かった。
学食に入ってすぐ、左隅に配置してある六人掛けのテーブルを見ると、いつものようにアギーが座っていて、向かいの席には『先客』がいた。

他の客の姿はなかった。
早く用事を済ませられそうだった。
まず、カウソターに行ってカレーライスを取ってきたあと、アギーのいるテープルに向かった。

テーブルのすぐそばまで行くと、アギーが僕に気づき、彫の深い顔を崩してとろけるような笑みを浮かべた。
向かいに座っている『先客』は僕のほうを見て一瞬、なんだおまえ、といった感じでガンを飛ばしたけれど、すぐに僕だということに気づき、小さく頭を下げた。
『先客』は沢田という、両方の乳首にピアスをしていることで有名な二年坊だった。

僕は沢田とのあいだをひとつ開けて、テーブルに座った。
僕がカレーを食べ始めたのとほとんど同時に、アギーと沢田の会話が再開した。
黙って聞き耳を立てているうちに分かったのは、沢田のつきあってひと月になる彼女が妊娠して、沢田は当然堕ろしてもらうつもりなのだが、彼女の話によると、手術費用が三十万もかかるらしく、沢田はもちろんそんな大金を持ってないので困っていて、ひったくりやノックアウト強盗をすることも考えたけれど、根性がなくてできなかった、というような内容だった。

「あくまで例えばの話なんですけど……」沢田が切羽詰った声で言った。
「例えば、俺が階段の上から女を突き落とすとしますよね。それで、女はたいしたことなくて、お腹の中の子供だけが死んだ場合、俺の罪はどうなるんですか?」アギーはため息をついたあと、やれやれといった眼差しを浮かべながら、僕を見た。

僕は、さてどうする、といった挑戦的な笑みをアギーに向けた。
アギーは眼差しを険しいものに変え、沢田を見た。
「おまえがやろうとしてることは、刑法第一九九条の『殺人』の罪にあたる。おまえは死刑か無期懲役になるな。特に、胎児に対する罪は重くて情状酌量もないだろうから、たぶん、間違いなく死刑になるだろう」

「死刑ですか……」沢田の顔が辛そうに歪んだ。
「俺、どうすればいいんですかね」
「角膜か、腎臓でも売って金を作れよ」アギーはきっばりと言った。

「売買やってる知り合いがいるから、紹介してやろうか?」
「勘弁してくださいよ」沢田はそう言って、泣き笑いのような表情を浮かべた。

「赤ん坊を殺す度胸はあっても、自分の体が傷つくのはイヤってわけか、あ?」
沢田の目が潤み、本当に泣き出しそうになった時、アギーが言った。
「小笠原に飛ぶか?」