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ジェニィ
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著者
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ポール・ギャリコ | |||||
出版社
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新潮文庫/新潮社 | |||||
定価
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本体価格 629円+税 | |||||
第一刷発行
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1979/7/25 | |||||
ISBN4−10−216801−X |
1 発端 ピーターはどうも自分は事故にあって、ひどい怪我をしたのにちがいないと思った。 その子猫を抱いて撫でてやりたいと思ったわけなのだが、ばあやが金切り声をあげたとたんに、何かがすごい勢いでどすんとぶつかり、そのあとは、陽が落ちてあたりが真っ暗になり、昼が夜に変ってしまったような気がした。 ぼくは今ベッドにはいっているようである。 かと思うとこんどはその顔が望遠鏡を逆にのぞいているように、遠くにかすんでいって、とても小さく見えるといった具合である。 母はいつもせわしなくおしゃれしながら、ぼくをばあやにまかせっぱなしにして、外出しないではいられないたちだからである。 それをまるで、自分の身のまわりの始末さえできない小さな子供のように、いつまでたっても手をひいて歩きまわりたがっているんだから、困ったものである。 母はばあやが自分の代りをしてくれることに、ますます頼りきってしまい、いつかも父がブラウン大佐というのだが一もうそろそろばあやにひまをやっていいころじゃないか、と言い出してみたのだが、母はばあやを帰らせることなど考えても耐えられないと言ったので、もちろんばあやはそのまま家に居ついてしまった もしぼくが今ベツドについているのだとしたら、たぶんぼくは病気なのだろう。 その猫はぼくのベッドの足もとで体を丸めて眠り、寒い夜だったら、たぶんふとんの中にもぐりこんで来て、ぼくの腕の中に寄りそって来ることだろう。ピーターはものごころがついてからずっと猫を飼いたいと思っていた。最初の記憶は今からずいぶん前のことであるが、四歳になったころ、ジェラーズ・クロス近くのある農園に連れて行かれて泊ったことがあった。 ショウガ色の母親猫はいかにも誇らしげに相好をくずし、一匹ずつ、つぎつぎに舌で子猫の体じゅうをなめてやっていた。 母親猫はやわらかくて暖かく、体の中に何だか奇妙な、どきどき脈打つような音をさせた。あとで知ったのだが、それは猫がのどをごろごろ鳴らす音で、悦にいって満足していることを示すのだそうである。
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