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僕は結婚しない
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著者
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石原慎太郎 | |||||
出版社
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文藝春秋 | |||||
定価
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本体価格 1333円+税 | |||||
第一刷発行
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2001/9/30 | |||||
ISBN4−16−320380−X |
─ 結婚は、ほとんどすべての人々が歓迎する不幸である─
実際のところ僕たちはいったいどれくらいの間男と女のくせに、しょせんセクスの前戯のはずなのに、手も握らず体もくっつけずにがさつに跳ね回る踊りに飽きずにきたもんだ。 もっとも夫婦してのことで、若い相手ではああはいかないだろう。 帰り道に武井がひさしぶりに海を見たいななんていうもんだから、それじゃ明日は天気もよさそうだし逗子のマリーナに預けてある兄貴のデイセーラーにでも乗るかということで朝起きしてやってきたら、例によって整備が悪くてマストを支える肝心のワイアステイが腐食して切れかかっていた。 ワイアを取り寄せて直るのは昼すぎになると管理人がいうので、仕方なしに堤防の上で上半分裸になり、車から取り出した将棋をさし始めた。 腕のほどは二人とも素人にすればまあかなりのところだが、不思議なくらいいつも互角でどっちが急にどっちかを抜いて進歩ということがない。 一局終わったら、「しかしまあ、こんないい天気なのにこんなとこでまた将棋かねえ」僕がいおうとしたことをあいつの方が先にいった。 「どうして、いいんだ?」 なんのつもりか独り言みたいにいいながら武井はまた駒を並べ出した。 このあと勝った方と一局どうです」 「晩のおかずですか?」皮肉ともとらずに、「そう、自給自足。健全な家庭生活よ」そのまま子供を促して堤防の先の方へ歩いていってしまった。 「なら俺たちも午後は船の上から釣糸でもたらすか」 「今夜も二人でさしつさされつかよ。あんまり変化ねえなあ」 「そういえばこの前の小学部の同窓会、お前はバンコックにいっててこなかったけど、眺めなおしてみたら九割は結婚してるんだよな。それでもその中の三割が離婚。俺のクラスじゃまだヒトリモンは俺と高見と藤林、そんなとこだったよ」武井がいった。
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