はじめに
プロデューサー ・ 演出 西山仁紫
1977年春、イーグルスの「ホテルカリフォルニア」がはやっていたころ、僕は羽田からロサンゼルスヘと飛び立った。
メンバーは見知らぬ男女18人。
英語留学するために、全国から応募してきた面々である。
ロングビーチという町の大学の寮で共同生活が始まった。
18人は朝から夜までずっと一緒に行動した。
もちろん、周りはアメリカ人ばかり。
英語ができるやつなんていない。
英語留学なんてほとんどなかったころのことなので、海外生活に関する情報もなく、不安な気持ちで毎日を送っていたのを思い出す。
そして一か月後、何と18人のうち10人の男女がデキてしまったのである。
『あいのり』と違って恋人を探す旅ではなく、英語を勉強するのが目的のはず!
しかも、半数は日本に恋人を残しての参加だったのにである。
もちろん、僕もカップルになったおかげで、英語がちっともうまくならないで帰る羽目、になってしまったのだが…。
しかしそのとき、僕は一つの法則を発見した。
「海外のように閉じられた空間に身を置くと人は不安になる。不安の中で他人に頼ろうとし、そのプロセスで他人のいい部分を発見していく。そして、いつの間にか恋に落ちる」という法則を。
それから20年後、テレビを見ていた僕は思った。
真実の愛をテーマにしたトレンディドラマは星の数ほどあるのに、バラエティーやドキュメンタリーはひとつもない。
普通の人が恋愛していくプロセスをカメラで追っていく番組はできないだろうか?
そのためには、海外で「閉じられた空間」をつくればいいのではないか。
そうすれば、トレンディドラマのように劇的な恋愛がたくさん生まれるに違いない。
こうして『あいのり』の原型である『なりゆき!』(※)がスタート。
しかし2週間の期限だと恋愛できない人がいた。
恋をするのに期限があるというのも無理な話じゃないか?ということで、旅の期間を無期限とした「あいのり」へと進化したのである。
『あいのり』が始まって1年半、真実の愛がちょっとだけ見えてきたような気がする。
そういえば、旅から帰ってきたミドリがこんなことを言っていた。
「『あいのり』の旅は、日本で会うのと違って、まず先にボトムの部分を見られる。だからどうしても内面重視の恋になる」。
この言葉が『あいのり』の旅をとてもよく表している。
日本での普通の恋愛だと、相手の長所ばかり見えるし、自分も長所をアピールしようとする。
しかし、異国の地での貧乏旅行、毎日朝から晩まで7人で行動、という非日常のシチュエーションの中ではそうはいかない。
ついつい素顔に戻ってしまうので、欠点まで浮き彫りになってしまう。
テレビを見ている人にとって、ラブワゴンは楽しくて素敵な恋のできる、夢いっぱいのクルマに見えるかもしれない。
しかし、参加するメンバーにとっては、等身大の自分と向き合わざるを得ない、過酷な鏡張りの空間である。
不完全な自分をさらけ出す中で自信をなくしたり、あるいは好きになった人がライバルと恋に落ちていく様子を、至近距離から見守るしがなかったり…。
逃げ出したくなったり、1人になりたくなっても、明日はまた同じラブワゴンに乗って、同じメンバーと顔を合わせなければならない。
そんな旅だから、皆一度はリタイアを考える。
しかし、『あいのり』のメンバーは皆、自分との闘いを乗り越え、お互いがお互いの良いところ、悪い所を十分知った上で、恋をしていく。
だから真実の愛が生まれる。
ラブワゴンは、もしかしたら「世界で一番ピュアな恋のできる魔法の箱」かもしれない。
(※)『男女8人恋愛ツアーTOK10のな・り・ゆ・き〜』・・1988年10月、1999年9月までフジテレビ系で放送。
一般公募で集まった恋人募集中の男女各4人が海外を貧乏旅行。
過酷な旅の中で8人にどんな恋が生まれるのかを観察するバラエティー。
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