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資本主義のための革新 イノベーション
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著者
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小室直樹
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出版社
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日経BP
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定価
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本体 2400円(税別)
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ISBN4−8222−2902−5
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まえがき ベンチャー・ビジネスに成功する秘訣は何か。 過去の成功を捨て、常識を捨てる競争に勝つことである。 繁栄の絶頂にのぼりつめた日本が不況の奈落に転落したのも、過去の成功にすがりつき、革新(創 造的破壊)を決行しなかったからである。 戦後日本の経済は、官僚統制による重化学工業などへの重点的設備投資によって高度成長を繰り返 して経済超大国へ伸し上がった。 この夢想外の大成功に日本人は眩惑され、産業資本主義時代の「官 僚化による社会主義」をふり切れず、ベンチャー出現の可能性を閉した。 そこへ突然、一五〇年に一度の資本主義の革命、情報革命が襲来した。これは、資本主義本来の姿 の に立ち返る革命である。日本はこの大革命に気付かず乗りおくれた。 情報革命後の時代は革新(ベンチャー)の時代である。 「官僚化」によって社会主義化した大企業 の時代を打破して、イマジネーションと冒険心に富む企業者(unternehmer)という英雄が、企業 の大きさではなく、情報の集約と活用のスピードで勝者となる時代である。 資本主義の生命は革新にある。革新が出なくなれば、利子・利潤はゼロになって資本主義は社会主 義化し、やがて滅亡するであろう。この真理が身に染みて感じられる者が革新一ベンチャー)に成功 して資本主義のライオン(百獣の王)になる。 企業の規模は、今や、問題ではない。過去を忘れ無視し、 今までとは全くちがった新機軸を創始し、やりぬく実行力のある企業者の試行錯誤こそがポイント なのだ。そんな情報資本主義の世となった。 情報資本主義の時代になって、経済学は、本来の面目を発揮することになった。 自由市場(完全競 争市場)が、歴史ではじめて、現実的となったからである。 完全競争は絢燗豪華な諸定理を与えてくれるので経済学者を魅了してきた。が、成立するための諸 条件があまりに非現実的であると批判されて支持が得がたかった。しかし、情報革命の結果、世界資 本主義の原則が完全作動をしはじめることによって、完全競争の非現実性(完全情報、需要者・供給 者の十分多数、同無差、別、参加・退出の自由)は取り除かれて、それは今や、現実的なものに急速に 近付きつつある。 自由(完全競争)市場が強く現実性をおびてきたので、資本主義はその本来の姿で活動をはじめ、 その絶大な威力が発揮できるようになった。アメリカは資本主義の本領に復帰して繁栄をとりもどし た。イギリスは、サッチャーによる社会主義の押しもどしによって英国病を完治させた。 オランダは ベンチャーの隆盛によって復興した。ニュージーランドは規制撤廃によって荒廃から甦った。 ひとり日本だけが、経済無知な経済官僚が諸企業を独占しているために、自由市場は逼塞(八方塞 がり)し、社会主義化は進展して地獄へむけて一直線である。彼らは、資本主義の命脈は、利子・ 利潤によって保たれていることに思いも及ばない。 このことは、歴史を丹念に学ばないで納得し得ることではない。利子・利潤が発芽し、抵抗を排し て育ちあがり、正当性を獲得するまでには、長い道程があった。宗教改革が必要であった。経済官僚 が、利子に命令を下して経済を破綻させ、長期にわたって利子率をゼロに据え置くという未曾有の途 方もない暴政を強行したのも、歴史に無縁の衆生であったからである。 日本のビジネス・エリートで「利子・利潤は本当に正しい」と確信している人は鮮ない。かの松下 幸之助翁ですら、これを覚るためには歳月を要したというではないか。 そのために、日本では資本主義に成り切らず、「法」も「倫理」も知らない前期的資本が蔓延り横行 する。企業のトップでさえも、「モラルハザード」どころか正真正銘の犯罪をおこしても平気である。 税金で作った天下り企業が三〇〇〇社を越え、特殊法人、公益法人は世にみちて民の膏血をしぼりつ くしている。金融機関や大企業も市場原理に支配されず、役人の頤使に甘んじている。 官僚制が社会主義化し腐朽しはてて、ベンチャーを起こす企業者も、慧眼によってその真価を見ぬ いてこれを助ける銀行家も生まなくなった本当の原因は何か。 極度の受験地獄である。 それが如何に官僚制を歪め機能停止に追い込むか。中国明王朝の壮絶にして巨大な歴史的実験が余 す所なく証明してくれている。現代日本と瓜二つの惨劇がそこに発見されて、この歴史的事実を理解 した人は、戦慄し悶絶するであろう。 資本主義の歴史的意義を透徹するために、ヴェーバーの資本主義の精神の徹底的説明からこの本を 始める。シュンペーターは革新(ベンチャー)こそ資本主義の生命であると説く。が、ヴェーバー的 背景において彼は正しく理解され得ると信ずる。 ウンターネーマfアクティーヴ・アスケーセになこ資本主義の精神、企業者の精神は、行動的禁欲によって担われる。世界史上、行動的禁欲ほど遭 遇困難な現象はない。パウロの伝道というか、カルヴァンの布教というべきか。 これほどの希有な現象を、われわれは、明治維新の下級武士に発見することができる。 彼らは、維新回天の大業を成就した後、資本主義へむけて突貫してゆく。革新につぐ革新、ベン チャーにつぐベンチャーで、資本主義を発展させていった。過去を捨て常識を捨てて競争に勝った者 である。 最後に、米国製の所謂近代経済学を紹介する。 それは日本には馴染まないといって毛嫌いする人も 多い。が、情報革命による資本主義の急速な世界化によって、自由市場(完全競争市場)は未曾有の 現実性をおびてきた。今こそ、経済学の威力は冴え渡る。 本当は、経済学を勉強したいのだが、数学アレルギーで経済学に入れないと嘆く人が多い。 この本は、数式を使わないで経済学の奥義を独覚されるように試みた。数学の精神は貫徹している。 例えば、マルキストは必要条件と十分条件との区別ができず国を滅ぼした。マルクスは、資本主義を 滅ぼさなければ失業はなくならないと論じた。それをマルキストは「社会主義になれば失業はなくな る」と読んだのであった!社会主義国は「失業者」を無理に企業内に抱え込んだ故に亡びた。 数学の威力これのみにて知るべし。この本では、方程式と恒等式が判別できただけで経済学の効力 は飛躍的にたかまることなどをデモンストレートした。 最後に、ポール・サミュエルソン博士にならって 二十一世紀を担う"企業者”諾君に、熱いエールで乾杯を ! 平成十二年神無月 小室直樹 |
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