BOOKSルーエのおすすめ本 画像 ★ 会員登録はこちら⇒ 
(1500円以上で宅配送料無料)

 黒の狩人 上
 
大沢在昌/著 出版社:幻冬舎 定価(税込):1,785円  
第一刷発行:2008年9月 ISBN:978-4-344-01559-3  
e−honでご注文
 
警視庁、公安、そして中国国家安全部。 それぞれの威信と国益をかけた戦いがはじまった!
 

本の要約

中国人ばかりを狙った惨殺事件が続けて発生した。手がかりは、頭部と四肢を切断された死体のわきの下に残された「五岳聖山」の刺青だけ。手詰まりとなった捜査に駆り出された新宿署の刑事・佐江は、捜査補助員として「毛」と名乗る謎の中国人とコンビを組まされる。そこに、情報のためなら身体を身うことも厭わない外務省の美人職員・由紀が加わり、三人は事件の真相に迫ろうとするが―。

大沢 在昌 (オオサワ アリマサ) 
1956年名古屋生まれ。慶応大学法学部中退。79年「感傷の街角」で第1回小説推理新人賞を受賞し、デビュー。86年「深夜曲馬団」で日本冒険小説協会大賞最優秀短編賞、91年「新宿鮫」で第12回吉川英治文学新人賞と第44回日本進理作家協会賞長編部門、94年「新宿鮫 無間人形」で第110回直木賞、2001年「心では重すぎる」、02年「闇先案内人」で日本冒険小説大賞、04年「パンドラアイランド」で第17回柴田錬三郎賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


オススメな本 内容抜粋

その男を見たとき、雷は目を疑った。十八年間、忘れようとしても忘れられなかったいくつもの顔
の中で、特に忘れられないのが、その男の顔だった。
松……。男の名を雷は口の中でつぶやいた。十八年前はそう名乗っていたが、もちろん本名の筈は
なかった。
一九八九年の六月、雷は北京、天安門広場にいた。胡耀邦の追悼行事として始まったデモは、や
がて民主化要求の巨大な波となって、紫禁城(故宮博物院)の正門前に集結していた。
「天安門事件」と呼ばれる弾圧は、歴史上、二度起きている。一度目の弾圧は一九七六年で、このと
き雷はまだ八歳だった。今、雷に横顔を向けてスターバックスのコーヒーカップを手にしている
“松”も同じくらいだったにちがいない。
周恩来の死去をきっかけに五十万の人民が天安門広場に集結、指導部批判に発展した。政府はこれ
を解散させるために武装警察を動員し、責任をとる形で、当時の副主席だった郵小平は失脚した。こ
れが第一次天安門事件だ。
第二次天安門事件で弾圧と殺戮の指揮をとったのがこのケ小平だというのは、歴史の皮肉という他
ない。しかもこのとき政府は、警察ではなく、軍を投入した。
戦車に圧殺される学生を雷は見た。解放軍兵士は逃げまどう学生に自動小銃を乱射した。何百人も
の死体が折り重なり、それを踏み越えるしか、銃弾を逃れる術はなかった。雷もそのひとりだった。
きのうまで肩を組み、歌をうたった仲間の血まみれの腹を、胸を、頭を踏んで、殺獄の場から逃れた
のだ。
まさか同じ中国人民に向け、解放軍兵士が発砲するとは、学生たちは思っていなかった。
それはもはや虐殺だった。発砲する兵士の中にも涙を流している者はいた。上官の命令とはいえ、
同胞を殺すことにためらいを覚えない筈はないのだ。
だがその中にあって、ひとり虐殺の場から安全に逃げおおせた男がいた。
それが“松”だ。解放軍の兵士に護衛され、そしてパトカーに乗りこむ姿を雷は見た。虐殺が始ま
る前なら、逮捕され連行されたのだ、と雷も思っただろう。しかし発砲命令が下ってから、兵士が学
生を逮捕する筈はなかった。
だとすればなぜ、”松”はパトカーに乗りこんだのか。
答はひとつしかない。人民中国の未来を憂い、ともに集まり、抗議集会の中心で喋っていた“松”
は、政府がもぐりこませたスパイだったのだ。
その証拠に、集会の中心にいて生きのびた学生も、事件後に次々と公安部や安全部に逮捕された。
雷も当局の追及を免れることができず、四年間の服役と強制労働を命じられた。
そして今、日本にいる。滞在ビザの期限はとうに切れていた。だが吉林省にいる妻と子供のために
も帰るわけにはいかない。拝み倒して日本への渡航費用を借金した親戚にも、顔向けできない。
渡航の手配をした人間の話では、日本は人手不足で、いくらでも仕事が見つかり、しかも給料は中
国と比べものにならない高額だということだった。
確かに日本は給料が高い。しかしそれは、食いものも家賃も、すべてが信じられないほど高いから
だ。一日十八時間働いても、仕送りはおろか、借金を返すアテすらできないありさまだ。
身も心も疲れきっている。馬か牛のように働かされ、楽しみも夢もない。
そんなとき、仲間からパチンコの“打ち子”の誘いがあった。パチンコの“打ち子”とは、あらか
じめ細工をしてあるパチンコ台で荒稼ぎをし、その金を分ける商売だ。もちろん違法で、つかまれば
刑務所に入れられるか、やくざにこっぴどく痛めつけられる、という噂だ。だが背に腹はかえられず、
雷は“打ち子”の話をうけることにした。
その稼ぎを分配する場に“松”がいたのだ。
そこは池袋の繁華街にある公園だった。日本にきて二年半になる雷が、ほとんど足を踏みいれたこ
とのない街だ。
公園のベンチに“松”はすわっていた。紺のブレザーを着て、足を組み、紙コップからコーヒーを
すすっている。
少し離れた場所に、雷たち四人の”打ち子”は集まっていた。それぞれが教えられたパチンコ台で
稼いだ金を懐うにしている。そのうちの四割が“打ち子”のとり分で、六割をパチンコ台の裏権利を
もつ男に支払うのだ。“打ち子”が稼ぐパチンコ台は、こっそりコンピュータのロムをとりかえたも
のだ。


(本文P. 5〜7より引用)


▼この本の感想はこちらへどうぞ。 <別ページでご覧になれます

e−honでご注文
BOOKSルーエ TOPへリンク
e−hon入会へリンク
 ★ 会員登録はこちら(1500円以上で宅配送料無料)⇒
このページの画像、引用は出版社、または著者のご了解を得ています。
当サイトが引用している著作物に対する著作権は、その製(創)作者・出版社に帰属します。
無断でコピー、転写、リンク等、一切をお断りします。
Copyright (C) 2001 books ruhe. All rights reserved.