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 うさぎパンダ  ヴィンチ・ブックス 
著者
滝羽麻子/著
出版社
メディアファクトリー
定価
税込価格1,050円 
第一刷発行
2007/08
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ISBN 978-4-8401-1897-2

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第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞作。
 

本の要約

「好き」がふえていくって、しあわせなことなの?新しい学校、年上の友だち、はじめての恋。15歳の優子に降ってきた、小さなやさしい奇跡。優子ちゃんと富田くんのパン談議がかわいい。第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞作。



オススメな本 内容抜粋

一学期最後の日、大変なことが起こった。

大変なこと、というのはちょっとおおげさな言いかたかもしれない。実際には、
成績が少し悪かっただけのことなのだから。
問題は、そのことについて、わたしとミドリさんの受けた印象がまったく違った
というところにある。ありがちな見解の相違。ジェネレーションギャップ?そう
考えると、むしろわたしというよりもミドリさんにとって大変なことが起きた、と
も言える。
ミドリさんというのは、わたしの義理の母親だ。
いわゆる教育ママというわけではないけれど、極度に心配性で過保護な、かわい
そうなミドリさん。「ままはは」という響きがまったく似合わない、おだやかで優
しいひとだ。今年、確か三十八になる。ぱっと目立つタイプの美人ではないけれど、
品のいい顔立ちと、つややかな黒い髪の持ち主だ。
わたしたちはとても仲がいい。血がつながっていないから、というだけの理由で
ミドリさんとわたしの仲を疑るひと(たとえば父方の祖母)を、わたしは心の底か
ら軽蔑している。
今、ミドリさんは深刻そうな表情でわたしの持ち帰った成績表をながめている。
いくらじっくり見ていても、そこに並んでいる数字は変わらないのに。
「そんなに気にしなくていいと思うよ?」
場を和ませるために明るく言ってみたけれど、ミドリさんは重々しく首をふる。
「優子ちゃん、そこに座ってちょうだい」
わたしはあきらめて、おとなしくミドリさんの向かいの席に腰かけた。外はこれ
でもかというくらい晴れていて、部屋の中は明るい。みんみんみんみん、と能天気
なセミの声が窓の外から聞こえる。
「これじゃわたし、聡子さんに申し訳がたたないわ」
そうくると思っていたので全然驚かなかったけれど、ミドリさんの沈痛な表情は
いつもわたしの気持ちを暗くさせる。
小さい頃からそうだった。わたしが何か困ったことをしでかすと、ミドリさんは
わたしの死んだ母親の名前を持ち出した。
正直に言ってしまうと、聡子という固有名詞そのものは、ちっともわたしの心を
動かさない。
生物学上の母親であり、わたしが三歳のときに病死してしまったそのひとのこと
を、わたしは何ひとつ覚えていないのだ。お母さんと呼ぶより聡子というほうがわ
たしにはしっくりくるくらいで、そう正直に言うと驚かれたり、けげんな顔をされ
たりする。大人はどうも感傷的になりやすい。
それよりも幼いわたしを悲しくさせたのは、聡子さん、と口にするときのミドリ
さんがあまりにもさびしそうな顔をすることだった。聡子はもういないのに、ミド
リさんだけがいつまでもその影に縛られている、それは子供心にも不当なことに思
えた。
ミドリさんにそんな苦労をかける原因となったわたしの父親は、大手の商社に勤
めるサラリーマンだ。今年の春から、ロンドンに単身赴任している。わたしの高校
合格が決まった直後に転勤の話が出たので、わたしは断固としてついていくのに反
対した。ミドリさんがついていくなら、ひとり暮らしなり苦手な祖母の家に住むな
りしてでも、絶対に日本に残る、と言い張った。
せっかく希望の高校に入れたのにもったいないという気持ちもあったし、大好き
なこの街を離れたくないというこだわりもあったが、そこまで強硬な態度をとった
一番の理由は、父に振り回されたくなかったからだ。わたしは父親のことがあまり
好きではない。というか、全然好きではない。わたしが血のつながりにたいした思
い入れを持てないのは、こんなところにも原因があるのかもしれない。
「聡子さんが死んでから、あの子はすっかり変わっちゃってね」


(本文P. 5〜8より引用)

 

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