世界24カ国で大反響!ネズミの時計職人ハーマックスは、壊れた懐中時計を持ち込んだ女飛行士リンカに心奪われる。しかし、リンカはいつまでたっても時計を取りに来ない。行方不明になったリンカ、事件の裏には陰謀が・・・。永遠の若さを約束する<月の樹>をめぐる恋と時間の大冒険。ちょっと毛深い(?)新ヒーローの誕生です! ネズミの時計職人ハーマックス・タンタモクは、平凡ながら充実した生活を愛する独身主義者。けれどもある日、壊れた懐中時計を持ちこんだ女飛行士リンカに、すっかり心を奪われてしまう。 しかし、リンカはいつまでたっても時計を取りにこない。名刺をたよりに訪れた部屋は、ひどく荒らされていた。事件の裏には、不老の秘薬<月の樹>をめぐる陰謀が――行方不明になったリンカへの想いはつのるばかり。さあ、どうするハーマックス!? かくして恋と時間の大冒険がはじまった!
予期せぬ 訪問者
「ああ、これはなんと!」ハーマックス・タンタモクは腕時計を慎重に調べながらつぶやいた。 こんなに美しい時計が、ここまでめちゃめちゃになったのは初めて見た。クリスタルガラスは割れ、針は溶けたロウのように曲がっている。 文字盤はひどくこすれて数字も読めない。 客の若いネズミは鋭い爪でカウンターをこつこつとたたいた。 「おねがい、大至急修理してほしいの」彼女は早口で告げた。 「正確に時を刻むようにね。完壁に。ぜったい狂っちゃだめ!」 ハーマックスは接眼鏡をはずして、せっかちな新しい客をまじまじと見た。 客はひどく深刻そうに眉をひそめているが、しかめっつらがまるで似合わない陽気な顔つきだ。 化粧はしておらず、つややかな焦げ茶の毛皮も自然のまま。 鮮やかな緑色の羽根をつばにさした赤い野球帽をかぶり、しゃれたチェックのスカーフをしめて、すこしくたびれた革のフライトジャケットを着ている。 彼女はショルダーバッグの奥底から、小さなケースをとりだした。 そこから薄紫色の名刺を一枚ぬきとると、あでやかな手つきでハーマックスにさしだした。 「請求書はこの住所に送ってちょうだい」 ハーマックスは腕時計をビロード張りのトレイにそっと置いて、名刺を読んだ。 「この時計はかなりひどく壊れています、ミズ・パーフリンガー。 奇跡でもなければ、完全な状態には復元できません」彼はまじめそのものの口調で答え、「もちろん」と、誇らしげにつづけた。 「ぼくならそういう奇跡が起こせます。では、いつまでにお直ししましょうか」 「あら、今日の午後に決まってるじゃない!時は金なりよ。時計がなければ、一日だって暮らせるわけがないでしょう!」 「弱りましたね、ミズ・パーフリンガー。今日中に修理するのは、とうてい無理だと思います。まず、クラデンダ・ノッデムの床置き大型振り子時計があります。まにあわせの材料で滑車用のスプリングをつくらなくてはなりません。つぎに、ブラッチリン・ウェファップの懐中時計。これは一週間前に預かったものです。竜頭支えが丸いカブみたいに曲がっているので、それをたたいてまっすぐにします。やすりをかけて、きちんとネジが巻けるようにしなければなりません。そのあとが、あなたの時計です、ミズ・パーフリンガー!こんなに美しい時計が、修理ができないほど無惨な状態になるなんてショックとしかいえません。いったいなにがあったのです?」 「職業につきものの危険ね。そういうこと!」彼女は無愛想に答えた。 「それ以上は話すわけにいかない。でも、これだけは言っておくわ。冒険家といえば、気まぐれで、大胆不敵な行動をする職業だと思うかもしれないけど、じつは、きっちり時間どおりに行動するのが基本なの。慎重に計画をたてて、細心の注意をはらって実行する。あなたが見てるめちゃめちゃに壊れた腕時計は、心臓の鼓動も同然の、わたしの体の一部といってもいいものよ。だから、こんなことにならないように、できるだけ気をつけてきた。腕時計が正確に動いてくれなくては、仕事にももどれないわ。それで、修理はいつ終わる?」 ハーマックスは接眼鏡を目にはめて、腕時計を調べた。
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