子どものような両親に手を焼きながらも、自分だけが授けられた「才能」に気づき、“傾いてしまった”家庭の中で自分自身を見つけ出そうとする15歳の少年の成長物語。「ぼくは静かに揺れ動く」のハニフ・クレイシがユーモラスかつ軽快に綴る、家族“青春”小説!
「学校は今日はどうだったの?」 「勉強すればするほど自分の馬鹿さかげんを思い知らされるんだ」と、ガブリエルは答えた。 「パパから電話あった?」 自分の父親の居場所がわからないということだけでなく、ガブリエルの住んでいるあたりの天気も、今日は何だかおかしなことになっていた。 朝、ハナと一緒に学校に向かった時には、秋だというのに、春雨のような雨がしとしとと降り注いでいた。 二人が校門に着いた頃には、かぶっている帽子の上には雪が積もっていた。 昼休みの校庭では、突然照明灯がつけられたかのように、太陽がまぶしく照りつけ、あまりの暑さに生徒たちはシャツ姿になって遊び回った。 午後遅く、早く家に帰ろうとハナと一緒に公園の外れを抜けていた時、新緑の季節が再び訪れる前に、公園の落ち葉が地面から引きはがされ、もとあった木の枝にひらひらと舞い戻ってしまったのだと、ガブリエルは信じて疑わない気持ちに襲われてしまった。 横をちらっと見やったガブリエルは、もっとおかしなことにも気づかされた。 一列に植わった水仙の花が頭をもたげ、演技を終えておじぎをするバレリーナのようにうつむきかげんになっていた。 その水仙の花のうちのひとつがウインクをしたのだ。 ガブリエルはあたりを素早く見回してからハナの毛深い手を握りしめた。 ふだんはめったにそんなことはせず、友だちに見られるかもしれない時はなおさらのことだった。 しかし今日は状況が違っていた。 世の中が正気を失っていたのだ。 「パパから連絡がある?」と、ガブリエルが尋ねた。 ハナは外国人のオーペア(外国の家庭に住み込んで寝食の代わりに家事を手伝う若い外国人。通例女性で、しばしば外国語を学ぶのが目的)だ。 「誰から?」と、彼女が聞き返す。 「ぼくの父さんだよ」 「あるわけないでしょ。出て行ったの!行ってしまったのよ!」 ガブリエルの父は、ママにそそのかされ、三か月前に家を出てしまっていた。 これまでとは違って、父からの電話はもう何日間もなかったし、ガブリエルが最後に父と会ってから少なくとも二週間が過ぎていた。 家に着いたらまっ先にウインクする水仙の絵を描こうとガブリエルは決めた。 そのことを父に教えるのを忘れないために。 パパは歌うことや、詩を暗諦するのが好きだった。 「麗しき水仙よ涙なしには見られないそんなにもあっけなくおまえたちが消え去って行くのを……」 二人で一緒に歩いている時、父はそんなふうによく詩を口ずさんだものだった。 パパから見れば、店や歩道や人々は自然と同じように命ある存在で、人間的な利害とより密接な関係があるものの、木々や水、あるいは空のように絶えず移り変わるものだった。 それとは対照的に、ハナはまるでクローゼットの中を歩いているかのように、決して脇目をふらなかった。 彼女はほとんど英語を理解できず、ガブリエルに話しかけられると、灰皿を呑み込もうとしている人間のように、眉をひそめてしかめ面をした。子供のほうが彼女よりもちゃんと英語が喋れることに、たぶん彼ら自身がいちばん驚いていたはずだ。 ガブリエルは十五歳になっていたが、つい最近まで、息子がよくある誘惑に落ちたり、悪い遊びに巻き込まれたりしないよう、父親のレックスがいつも学校まで迎えに来て、一緒に家まで帰っていた。それほど昔のことでもないが、近所の共同住宅が建ち並ぶ一画で起こった危険なできごとにガブリエルが巻き込まれ、パパが彼を救い出しに行かなければならないこともあった。 さいわいなことにパパはミュージシャンで、昼間はしょっちゅう暇にしていた。 ガブリエルの母親に言わせると、”暇を持て余しすぎている〃ということで、彼女はレックスそのものが”持て余される”存在になっていることにすでに気づいていた。パブに日参することを別とすれば、学校へ迎えに行くことがパパにとっては唯一の”体系だった行動”となっていた。 パブにはビール・グラスの底を通して世界をとらえようとする父親たちが、彼のほかにもいつも何人かたむろしていた。 ガブリエルとパパはしょっちゅうカフェやレコード・ショップに立ち寄った。あるいは二人でガブリエルが最近撮った写真を受け取りに行ったりした。暗室を持っているパパの友だちが現像してくれるのだ。
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