「文学としても、エンターテインメントとしても完璧な小説」(ニューヨーク・タイムズ紙)発売と同時にアメリカ出版界の話題を独占。全米のマスコミで絶賛された一冊。14歳の少女スージーは帰宅途中にレイプされ、殺された。愛する娘の死に父親は自ら殺人犯を追いつめようとし、現実を直視できない母親は家を出ていってしまう。妹とまだ幼い弟は、自分たちの人生をふたたび始めるため、姉の死を受け入れようともがく。崩壊していく家族と、警察の手から逃げのびて平穏な日々を過ごす殺人犯を、天国からスージーはもどかしい気持ちで見守っていたが…。
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わたしはスージー・サーモン。 魚と同じ名前よ。 一九七三年十二月六日に殺されたとき、まだ十四歳だった。 七〇年代に行方不明になった女の子たちときたら、みんなわたしと似ている。 くすんだ茶色の髪をした白人の女の子。 あのころは、あんな恐ろしい事件が起こるはずはないと、誰もが信じていた。 わたしは中学校の卒業アルバムに、妹が教えてくれたスペインの詩人フアン・ラモン・ヒメネスを引用した。 こんな感じの詩だった。 “罫線の入った紙をもらったら、線を無視して書いてごらん”ロック・グループのつまらない歌詞ではなくこの一節を選んだのは、頭ががちがちに固い同級生たちを軽蔑していたし、この詩は文学っぽいと思ったから。 わたしはチェス部と化学部の部員で、デルミニコ先生の家庭科の実習では、あらゆるものを焦がした。 いちばんのお気に入りは生物のボッテ先生。 解剖するカエルやザリガニを、ホーローの鍋のなかで飛び跳ねさせるのが好きな人だった。 でも、ボッテ先生に殺されたんじゃない。 これから登場する人たちをいちいち容疑者だと思わないでほしいな。 それでは困ってしまう。 わかってもらえないだろうけど。ボッテ先生はわたしの葬式に来てくれて(わたしはそんなに人気者じゃなかったのに、中学校のほとんどの人が来てくれた)、大泣きしていた。 先生には病気の子どもがいて、みんながそのことを知っていた。 ボッテ先生が自分のジョークに笑っているときは、先生を楽しい気分にしてあげたくて、みんなで無理に笑ったこともある。 以前のわたしなら、そんなくだらないことをしなかったのに。 先生の娘は、わたしが死んでから一年半後に亡くなった。 白血病だった。 だけど、まだ天国では見かけていない。 わたしを殺した犯人は近所の男だ。 母はあいつの細長い花壇が好きだった。 父は一度あいつと肥料の話をしたことがある。 わたしを殺した男は、卵の殻とかコーヒーのかすといった昔ながらの肥料が効くと信じていたみたい。 あいつの母親が使っていたんだって。 父はにこにこしながら家に帰ってきて、あそこの庭は確かに美しいけれど、酷暑の季節になったら天まで高くにおうだろうな、と笑った。 一九七三年十二月六日は雪が降っていた。 中学校からの帰り、わたしはトウモロコシ畑を横切って近道をした。 冬で日が短かったので外は暗く、折れたトウモロコシの茎のせいで歩きにくかったのを覚えている。 小さな手がはらはらと落ちてくるかのように、雪が静かに降っていた。はじめは鼻で息をしていたけど、かなり鼻水が出ていたので、口をあけずにはいられなかった。 降ってくる雪をなめようと舌を突き出したとき、六フィートしか離れていないところに立っていたミスター・ハーヴェイに気づいた。 「驚かないでくれ」ミスター・ハーヴェイがいった。 そういわれても、暗いトウモロコシ畑だし、びっくりするにきまっている。 あのとき辺りにかすかににおっていたコロンに、もつと注意すればよかったと、死んでしまってから後悔した。 それとも、あれはもつと遠くのどこかの家からにおっていたのかな。 「こんにちは」わたしはいった。 「サーモンの家のいちばん上の娘だな?」 「はい」 「家の人たちは元気か?」 家ではいちばんおねえさんだったし、理科のテストでいい成績を取るのも朝飯前だったけれど、大人と話をするときは、いつもなんだか落ちつかない気分がした。 「元気です」寒かったけど、ミスター・ハーヴェイはいかめしく、そのうえ近所の住人で、わたしの父と肥料の話をしたこともある人となれば、立ち止まらないわけにはいかなかった。 「すぐそこに、ちょっとしたものをつくったんだ」とミスター・ハーヴェイがいった。 「見たいかい?」 「少し寒いんです、ミスター・ハーヴェイ」とわたしはこたえた。 「それに、ママが暗くなる前に帰ってきなさいって」 「もう暗いよ、スージー」 あのとき何かおかしいと気づいていたら。 だって、あいつにわたしの名前を教えたことはなかったんだもの。 たぶんあのときは、父がいつものようにあいつに何か恥ずかしい昔話をしたのね、くらいに考えたのだろう。 父は、バスルームで撮った裸の子どもの写真を持ち歩くような人だった。
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