プレイ 獲物 下
著者
マイクル・クライトン/著 酒井昭伸/訳
出版社
早川書房
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
2003/04
ISBN 4-15-208487-1
20世紀フォックス映画化 夢の最先端技術 ナノテクロノジーに潜む恐怖

〈本書に寄せられた賛辞〉
★機械と生命の境界はどこにあるのか。不気味な現実感に圧倒された。篠田節子(作家)
★人類は恐るべき「捕食者」を開発しつつあるのか?坂村健(東京大学教授電脳建築学)
★ページを開いた途端、読者は落雷に打たれたかのようにクライトンのストーリーテリングにしびれてしまう。暴走するテクノロジー、科学と利潤追求などの問題を扱った本書は、クライトンがこのジャンルの第一人者であることを示している。『ジュラシック・パーク』以来、もっとも手に汗握る傑作だ。パブリッシャーズ・ウィークリー
★『プレイ』は抗うことができないほどサスペンスフルだ。エンターテインメントであると同時に、現代社会へ対する深い洞察に満ちている。ニューヨーク・タイムズ
★クライトンの最高傑作。ナノテクと人工知能という最新の科学技術と、そこに潜む危険性を鮮やかに描き出す。ガーデイアン
★複雑な科学知識と緊迫のストーリーを見事に融合させた本書は、八イテク・スリラーの王者クライトンの真骨頂。テクノロジーの過信は人類にとって思わぬ落とし穴となることを改めて教えてくれる。ブックリスト

第6日

PM2:52

屋外へは、ぼくが先頭を切って出た。
砂漠の強烈な陽光に、思わず目をすがめた。
午後三時ちかくだというのに、砂漠の太陽は真昼と変わらず強烈なままだ。
熱風がズボンとシャツをはためかせている。
ヘッドセットのマウスピースを口もとに引きよせて、ぽくはいった。
「ボビー、聞こえてるか?」
「聞こえてるよ、ジャック」
「映像はどうだ?」
「鮮明だ」
チャーリー・ダヴェンポートが外に出てきて、笑いながら自分のヘッドセットにいった。
「やあれやれ、リッキー、あんたも大馬鹿だよな、そうは思わないか?」
ヘッドセットから、リッキーの声が聞こえた。
「無駄口をたたくな。おれがそういうへらず口をきらうのは知ってるだろうが。だまって仕事しろ」
チャーリーのあとからは、メイが出てきた。パックパックのひもを右の肩にかけている。
ぼくに近づいてきて、メイはバックパックの説明をした。
「これは放射性物質をいれるためよ」
「重いのか?」
「容器がね」
メイのあとからは、デイヴィッド・ブルックスが出てきた。
そのすぐうしろにロージーもくっついている。
地面を踏みしめるなり、ロージーは顔をしかめ、
「うー、暑い」といった。
「砂漠っていうのはな、暑いものなんだよ。お勉強になったな」チャーリーがいった。
「あi、もう、くそったれ!あんた、うざいんだよ、チャーリー」
「くそなんかたれてないぜ、ロージー」
ぼく自身は、地平線を見まわすのに忙しく、ふたりのやりとりにかまってはいられなかった。
怪しい動きは見当たらない。
車を駐めてあるのは、五十メートルほど離れた屋根つき駐車場の下だ。
駐車場のはずれには、小さな窓がいくつかならぶだけの、四角くて自いコンクリートの建物がある。
あれが倉庫だろう。
一同、倉庫へ向かって歩きだした。
ロージーがいった。
「あそこ、空調がはいってたっけ?」
「ええ」メイが答えた。
「はいっているわ。でも、暑いわよ。断熱がよくないから」
「気密は?」ぽくはたずねた。
「完全ではないわね」
「つまり、気密じゃないってことさ」笑いながら、チャーリーがいった。それから、ヘッドセットに向かって、「ボビー、いまの風速は?」
「十七ノット」ボビー・レンベヅクが答えた。
「強風だ。いい感じだぞ」
「風がやむのはいつごろだ?日暮れどきか?」
「たぶん。三時間後ってところだろう」
「それだけあれば充分だな」とぼくはいった。
ふと気がつくと、デイヴィッド・ブルックスの口数がやけにすくなくなっていた。
倉庫へ向かう足どりも重たげだ。
そのすぐうしろからロージーがついていく。
「いやはや、こう陽射しが強いと、おれたちみんな、あっという間にトーストだな」
チャーリーがいって、例の人をいらいらさせる笑い声をあげた。
ヘッドセットから、リッキーの声が流れた。
「チャーリー、いいかげん、その口を閉じたらどうだ」
「そんなにうるさいんなら、あんたも外に出てきて、力ずくでだまらせたらどうだ、大将。まったく、よくいうぜ、臆病老のくせに。あんたの血管に詰まってるのはチキンのフンか、え?」
「目的に集中しろ、チャーリi」ぽくは釘を刺した。
「してますよ、してますよ」
強風で砂塵が巻きあげられ、地面はぼやけた茶色の絨毯のようになっている。
となりを歩きながら、砂漠の彼方に目を配っていたメイが、ここでふいに、右へ向きを変え、いった。
「やっばり、ウサギの死骸を調べなきゃ。みんなは先に倉庫へいっていてくれるっ一」

(本文P.7〜9より引用)

 
 


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