12の星の物語
著者
薄井ゆうじ/著
出版社
アクセス・パブリッシング
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
2002/12
ISBN 4-901976-00-1
あなたは、なに座?

あなたは、なに座?
12の星座に秘められた
12のハートフル・ストーリー
どこにもない世界の誰でもない人たちの物語
でも実は、あなた自身の物語……
 

 

山羊座通信
水瓶座日記
魚座システム
牡羊座新聞
牲牛座特急
双子座ファンクラブ
蟹座じゃんけん
獅子座レース
乙女座伝言板
天秤座からくり
轍座カレンダー
射手座大戦争

駅は混み合っていた。
自動販売機にコインを投げ入れて行き先のボタンを押すと、ことん、と音がして、販売機から、とてもいい香りのするブルーチーズがひとつ出てきた。
改札口へ行って駅員にそのチーズをすこし千切ってもらってから、僕はホームに滑りこんできた地下鉄に乗った。
山羊に会いに行くのだ。
地下鉄はそのまま土のなかに、もぞもぞと潜りこんでいく。
僕はシートにかけて、山羊のことを考えていた。
会うのは久しぶりのような気がする。
地下鉄はいくつかの駅に停車して、そこで何人かの客を乗せた。
ほかの乗客たちも僕と同じように、みんな手にブルーチーズを持っている。
みんなも山羊に会いに行くんだろうか、そう思ったけれど僕は黙っていた。
五つ目の駅が近づいた。
地下鉄はもぞもぞと地上に出ていく。
─山羊の駅です。
車内のアナウンスがあった。
その駅で降りたのは僕一人だけだった。
よく晴れた気持のいい午後、ひっそりとした駅舎の伝言板の前で、山羊はじっと僕を待っていてくれた。
「待った?」と、僕は言った。
めえ、と山羊は答えた。そんなに待っていなかったみたいなので安心した。
僕は持っていたブルーチーズを伝言板の前の切符箱に入れて、山羊と一緒に駅舎を出た。
駅の前には野原につづく長い一本道があって、遠く山並みが霞んでいる。
「久しぶりだね」と僕は言った。
「この前会ったのは、たしかクリスマスの日だったよね。
あのときはみんな集まって、朝まで大騒ぎをしたね。あのときのジョーク、まだ覚えてるかい。
トマトが地面に落ちるときの速さについての……、
あれは傑作だったよね」

(本文P.6、7より引用)

 

 
 


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