きものが欲しい!
著者

群ようこ

出版社
世界文化社
定価
本体価格 1400円+税
第一刷発行
2002/10/01
ISBN4-418-02517-0
使ったお金で家が建つ 群流きもの遍歴記 待望の書き下ろし

三十余年の粋で笑える「きもの遍歴記」、芸術家・篠田桃紅さんとの対談も収録

なけなしのお金をはたいて買ったきもの物語や、実母による30分500万円お買い上げ「噂の500万円事件」、呉服店でのお誂え苦労話など、群ようこ書き下ろし、まるごと一冊きもの遍歴記。

第1章

なぜ?きもの

私は子供のときに、こっそりタンスの引き出しを開けて、母親の着物を見るのが大好きだった。
特別、衣裳持ちだったわけでもないし、ごくごく普通の品物を嫁入りのときに持ってきたのだろうが、着物の入っている引き出しは、まるでそこだけお姫様の引き出しのように思えた。
当時私のなりたいものといったら、「琴姫七変化」の琴姫様だったので、母親の着物を羽織ると、それがまるでお姫様の裾をひいた着物のように見え、ずるずると家の中を歩きまわっては怒られた。
子供の着物は着丈に合わせてすでに腰揚げが縫われていたから、いくら七五三の着物であっても、裾をひくゴージャス度にはかなわなかった。
そしてその七五三の着物も帯も、ずっと私の手元にあったわけではなく、親戚の女の子の間をぐるぐるとまわって、無駄なく活用されたのであった。
母親は時折、家で着物を着ていた。
だいたいがウールで、銘仙を着ていることもあったが、のちにそれは布団がわに縫い直され、日常着はだんだんウール一辺倒になっていった。
私が自分の意思で着物を買ったのは、高校生のときだったが、それまでは七五三の着物以外は、母親のお下がりのウールしか持っていなかった。
小学校の高学年から中学生にかけては、お正月に気が向くとウールの着物を着ていたりした。
そのときから私は、いわゆる晴れ着にはまったく興味がなかった。
地色がピンクや淡いきれいな色の着物は、同じ着物であっても、触ろうとすら思わなかった。
小学校の高学年のときに着ていたのは、黒地にブルー、赤、黄の五センチ角くらいの格子柄だった。
それに嚥脂と黄色の腹合わせ(表と裏とをちがった布で縫い合わせた女帯)の半幅帯を締めていたような気がする。着物用の毛足の長いモヘアのトッパーコートを着て友達と近所の神社に初詣でに行こうと待ち合わせの場所まで出かけたら、なんと彼女はピンク色の鮮やかな晴れ着と白いショールをして立っていた。
彼女はクラスでいちばん足が速く、男の子とも平気で喧嘩をするような女の子だったので、私はそんな着物を着ていることにびっくりした。
あまりに彼女のイメージとかけはなれていたこともあるし、二人の趣味があまりに違っていたからだった。
彼女は気にしていないようだったが、私は雑談をしながら、腹の中で、
(絶対、私たちってバランスが悪いよな)
と思った。
ちょっと見はお嬢さまとつきそいのねえやといった感じだった。
私は格子柄のウールの着物が好きだったので、彼女が着ている着物に関してうらやましいとは思わなかったが、ふだん活発な彼女がその着物を着てきたことに、子供心に、
「?」
と考えてしまったのだった。
中学生になると家庭科の授業で浴衣を縫わされた。パジャマか浴衣か先生が選ぶようになっていたらしいが、洒落イヤミというあだ名の先生は、
「やっぱり浴衣の一枚くらいは縫えないとねーっ」
と甲高い声を発して、我々は浴衣を縫う羽目になったのである。

 
 

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