田口ランディの人生相談 神様はいますか?
著者

田口ランディ

出版社
マガジンハウス
定価
本体価格 1200円+税
第一刷発行
2002/08/22
ISBN4-8387-1386-X
どうしたら楽しく生きられるの?

救いを求める人のディープな悩みに、秀逸の一言とエッセイ風にエピソードを盛り込みながら応え、たくましく生きる術を伝授。『鳩よ!』好評連載「田口ランディの人生相談」がついに一冊に。「しりあがり寿の人生相談?〜?」の特別付録つき。

●担当編集者から
人生は悩みがいっぱい。
「かみさま〜」と祈りたくなったら、まずこの本を読んでください。
たくましく生きのびる術を伝授します!
2年程前「死ぬ理由もないけど生きてる理由もない」と書き残して飛び降り自殺をした福岡の女子高校生2人がいたことを覚えていますか?
この本は、なぜ生きるのか、というあまりに根元的な問いに迷った人たちに向けて、私はどう考えるか(どうすべきか、ではなく)という立場からさまざまに語ったエッセイ集です。
「神様はいますか」「愛は世界を救いますか」「人と人はわかりあえますか」等等、ディープな問いにひとつひとつ、エピソード満載で答えてゆきます。
考えることの楽しさ=生きることのたのしさ、であることをきっと実感できるでしょう。
特別付録「しりあがり寿の人生相談」も絶品!

神様はいますか

たぶん、いると思う。

子供の頃「ご飯を残すと神様が怒るよ」と教えられた。
「おまえみたいに食べ物を粗末にすると、神様が怒ってもう二度とご飯を食べられないようにされちゃうよ。いいかい、ご飯を残してばっかりいる子供は、これからご飯を食べようとすると、お茶わんから火が吹くんだ。ぼうぼう火が燃えて、ご飯が食べられなくなるんだよ」
なんという恐ろしいことを子供に吹き込む母親だろう。
呆れてしまう。
おかげで私の頭のなかに「炎のお茶わん」という漫画チックなイメージが鮮明に焼きついてしまった。
さらに、小学生のときに『十戒』という映画を観て、ますます神様が怖くなった。
そこには人間のアホさに怒り、人間を指導教育する鬼校長先生のような神様が描かれていた。
というわけで、子供のときの私の神様の印象。
それは「神様は怒りっぽい」である。
小学校六年生のときに恋をした。
初恋だった。
同じ学年の田口君を好きになったのだ。
いっしょに中学に進学できると思っていたのに、なんと彼は一人、私立中学に行ってしまった。
悲しくて布団のなかで何日か泣いた。
そして、私は生まれて初めて神様にすがった。
「神様、どうか将来、田口君のお嫁さんにしてください。いつか私を田口けい子って名前にしてください」
コレ、冗談ではなく本当のことである。
自分にこんなけなげな乙女時代があったなんて信じられない。
その当時はまだ「結婚」のなんたるかもわかっていなかったのだ。
ただ、私は彼と再び巡り合い、できることなら彼と相思相愛になりたかった。
大いなるロマンスの末、その結果としてのお嫁さんなのであった。
今でもよく覚えているが、私は血管が切れそうなほど真剣に神様にお願いした。
純粋だったのだ、あの頃。
そして神様は私の願いを聞き入れてくれた。
それから約十五年ほど経って、私は確かに「田口」という名前の別の男と知り合い、そして結婚して田口けい子になったのだ。
考えてみたら凄いことだ。
神様は私の願いを叶えた。
かなりズレてはいるが、私は間違いなく田口君と結婚して田口けい子になったのである。
この教訓をもとに私が悟ったのは、神様は結果主義だということである。
つまりお願いすると聞いてはくれるが、プロセスにこだわらない。
「はあ?田口と結婚したい?わかったわかった。ホレ」
………という感じで、願った言葉通りのことをしてくれるが、そのプロセスには無関心だし、人間の感情にも興味がないらしい。
人間じゃないのだから当然かもしれない。
しょせん神様は人間の心などわかりはしないし、わかろうとも思っていないのだ。だって人間じゃないんだから。
思えば、神様にお願いしたことでちゃんと希望通りになったことは一度もなかった。
神様というのは、人間の痒いところに全く手の届かない無粋な奴である。
私が全身全霊で祈るというのは、ほぼ…………というか一〇〇%、恋愛のことだった。
それ以外に神頼みをすることはなかったような気がする。
ただもう相手が自分のことを好きになってくれますように、それだけが私が神様にお願いしたい頼みだった。
なぜだろう、お金のこととか、仕事のことは頼んだことがない。
そういうことは自分の努力でどうにかなると思っていたのだ。
でも、恋だけは私の努力ではいかんともしがたく、神様に頼むしかなかった。
十九歳の頃につきあっていた大好きな男の子がいたのだが、その子はいつも他の女のことばかり気にしていてちゃんと私を見てくれない。
いまにして思えば私は「キープの女」だったんだろう。
なんとかその子の気を引きたいとずっと思っていたのだけれど、好きになればなるほど相手は私を放っておく。
「マサヒロ君が私の方を振り向いて私をもっと好きになりますように」
と、私はこれまた全身全霊で神様にお願いした。
すると、マサヒロ君は就職試験で希望の会社に落ちて落ち込んで、プライドをぺっしゃんこに潰されて、ぺらぺらの紙人形みたいになって私のところへやってきた。
「俺は疲れたよ。なんか君と二人でのんびりと公園で過ごしたい」
みたいな手紙が来て、喜んでいいのか悲しんでいいのかわからなかった。プライドを潰された男が低く見ている女のところに泣きついてくるのはよくあることだ。
だが、私はその時点でマサヒロ君に冷めた。
私は彼が思っているほどプライドの低い女ではなく、ぺっしゃんこの男なんて大嫌いだったのだ。
世の中はうまくいかないものである。
そういえばその後、神様にお祈りするほどの恋愛を一度もしていない。
(本文P8〜11 より引用)

 
 

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