バージニア州警察署長ジュディ・ハマーは苦悩していた。トラック運転手を惨殺し略奪を繰り返す強盗団が横行。その犯人逮捕もままならぬうちに、州職員の若い女性が無残なバラバラ死体となって発見された。その腹部には警察官の犯行を示唆する刻印が。P・コーンウェルの本格警察小説。全米ベストセラー。
1 ユニーク・ファースト、名は体を表す。 少なくともユニークの母親はいつもそう言っていた。 ユニークは最初の子どもだったし、ちょっとほかにはいないような女の子だったから。 たしかに、こんな人間は二人といなかった。 個性的なのはいいことだとは父親のドクター・ユリシーズ.ファーストの口癖だったが、彼には一粒種の娘が生まれながらに底なしの悪意を背負ってきたなどとは夢にも思いつかなかっただろう。 ユニークは十八歳。 小柄な、かわいい女の子だ。 つややかな黒髪を長くのばし、ミルクのような肌に、バラ色のふっくらした唇。 淡いブルーの瞳には不思議な力があって、ちょっと流し目を送っただけで、その目を見つめる人間の心をあやつって、「目的」を達することができると本人は信じていた。 何週間もだれかの心にとりついて、興奮がどんどん昂まって、ついに我慢できなくなると、最後の行動に出る。それは蓄積されたエネルギーの必然的で狂 暴な放出なのだが、たいていそのあと一時的な記憶喪失に陥る。 「ねえ、起こして悪いんだけど、車がいかれちゃったの」ユニークは、リッチモンドのダウンタウンのはずれにあるファーマーズ・マーケットにぽつんととめてあったピータービルト・トレーラートラックの窓を叩いた。 「電話、ないかしら」 午前四時で、あたりは闇につつまれ、駐車場の灯もほの暗かった。 ふだんならモーゼス・カスターはこんな時間に人けのない駐車場に車をとめるような危険なまねはしないのだが、女房とやりあった末に家を飛び出して、夜通しぶっ飛ばそうと思っていたところを、この野菜売り場のそばで力尽きたというわけだった。 これであいつもちっとは懲りるだろう。 夫婦喧嘩をするたびに彼は同じことを考える。 窓ガラスを叩く音に気づいて、モーゼスは運転席のドアを開けた。 「どうした、あんたみたいな女の子が、こんな時間にこんなとこでなにしてる?」 にこにこ笑いかけている天使みたいなクリーム色の顔を見つめながら、酔いも手伝って、モーゼスはめんくらった声を出した。 「もうすぐユニークな経験ができるわ」 ユニークは「目的」を実行する直前に、いつも同じことを言った。 「えっ?」モーゼスはいっそうまごついた。 「なんだ、そのユニークとやらは」 その答えは悪魔の一団となってやってきた。(本文P.7.8より引用)
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