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君がいない夜のごはん

 
君がいない夜のごはん 穂村弘/著
出版社名 : NHK出版 出版年月 : 2011年5月 ISBNコード : 978-4-14-005600-4 (4-14-005600-2) 税込価格 : 1,470円 頁数・縦 : 237P 19cm
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人気歌人・穂村弘の「食べ物」をテーマにした異色エッセイ集。
 
君がいない夜のごはん 穂村弘/著

本の要約

今日も真夜中のキッチンで私は電子レンジの「あたためスタート」ボタンを押す。人気歌人・穂村弘の「食べ物」をテーマにした異色エッセイ集。

[目次]
賞味期限;脳で食べる;我がダイエット;ショコラティエとの戦い;酔っぱらい様の謎;コンビニおにぎりの進化;入る店、入らない店;「混ぜ」問題など;純粋な食生活;食べ放題との戦い〔ほか〕

[出版社商品紹介]
料理ができず、味音痴で、飲食店にひとりで入れない、という著者の、菓子パンまみれのぐだぐだとした生活の中から産み出された、きらきらとした言葉の連なり


2011/06/07 

穂村弘先生にご来店していただきました。お忙しいところ、ありがとうございます。

これも、弊社BOOKSルーエは、穂村弘先生を応援します!

また、遊びに来てください。  ルーエ一同

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穂村 弘 (ホムラ ヒロシ)   1962年、北海道生まれ。歌人。短歌評論集『短歌の友人』で第19回伊藤整文学賞を受賞。また「ほむらひろし」名義で絵本の翻訳も多数手掛ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


オススメな本 内容抜粋

賞味期限

こんな詩を書いたことがある。

牛乳

カップに唇をつけたとたんに、牛乳が真っ黒になって驚く。
反射的に時計をみると零時。
賞味期限が切れたのだ。
空想である。
本当に真っ黒になったわけではない。
でも、こういう仕組みだったらいいのに、という希望的な空想だ。
何故そう思うのかと云うと、私は自分の鼻や舌に全く自信がないのだ。
中学二年のときに友達のイハラくんのうちで牛乳を出されたことがある。イハラくんはひと
口飲むなり、うっぷと云って顔を拭った。
「こら、あかん。腐っとるわ」と彼は云った。
私は呆然として目の前のコップをみた。空っぽだ。
「おめー、全部、飲んでまったんか?」
イハラくんは呆れたように云った。
「あああ」と私は云った。
腐った牛乳を一気に飲んでしまったという恐怖。それ以上に、自分が全くそれに気づかなかっ
たことのショック。
「味でわからんのか」とイハラくんは云った。
「味……?と私は思った。
なんというか、私は友達の家で腐った牛乳が出てくる可能性など考えたこともなかったのだ。
脳みその思い込みの前に、私の鼻や舌は眠っているも同然だ。
そんな自分を省みて思う。今日に至るまで、私は何度も牛乳を飲んできた。だが、もしかす
ると「本当に」飲んだことはなかったのかもしれない。
牛乳に口をつけることを「きっかけ」として、脳内に予め用意されている「牛乳の味」を再
現しているだけなんじゃないか。
その証拠に、今日の牛乳はおいしいとかまずいとか、新鮮とか腐りかけとか、個体差を感じ
た記憶が全くない。私の牛乳はいつも同じ「牛乳の味」なのだ。
初めて山羊の乳を飲んだとき、「ちょっと臭みがある」と思った。でも、そのときは事前に
これは山羊の乳だという情報が与えられていた。山羊の乳には「ちょっと臭みがある」筈だと
思った脳が、いつもの「牛乳の味」に勝手に臭みを付け加えたのではないか。山羊の乳だと知
らなければ、それは「牛乳の味」だったのではないか。
誰かが家に忍び込んで牛乳のパックの中身を米のとぎ汁と入れ替えても、私にはわからない
かもしれない。
こんなことではとても戦国武将にはなれない、と思う。簡単に毒殺されてしまうだろう。戦
国武将にならなくてもいいのだが、しかし、日常生活にも困ってしまう。
夏の朝起きて、カレーが鍋に残っていると緊張する。これが腐っていても絶対に私にはわか
らない、と思うのだ。

(本文P. 7〜9より引用)



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