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 秘密の本棚 漫画と、漫画の周辺
 

いしかわ じゅん 著 出版社:小学館クリエイ 定価(税込):2,520円  
第一刷発行:2009年5月 ISBN: 978-4-7780-3112-1 
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本の要約

誰よりも漫画を広く深く読み込む漫画家の著者が旬の話題作から古典名作、コミック業界のウラ話や極私的エピソードからうかがえる有名漫画家の素顔まで、次々に披露する。漫画評でもあり漫画エッセイでもある作品です。まるで作家の秘密の本棚をのぞきみるようなドキドキ感のある一冊で、これ一冊で日本マンガの豊かさ、奥深さが手にとるように実感できることでしょう。


オススメな本 内容抜粋

彼女のストレート
ひぐちアサが『おおきく振りかぶって』という漫
画を連載している。講談社の『月刊アフタヌーン』だ。
ひぐちアサは、野球漫画専門というわけではない。
野球漫画はこの作品に繋がる短編一本しか、少なく
ともぼくは読んだことがない。前作では、ちょっと
ぐちゃぐちゃした学生の恋愛やらなんやら、若い人
間の傷つきやすい心の中を覗き込むようなものを描
いていた。次が、まさかこうくるとは。
野球漫画は、普通はメジャーな雑誌に連載される。
野球はメジャーなスポーツだから、メジャーな話
をつくるのに便利だ。最大公約数的に、誰の中にも
野球に対する知識と感情がある。だから、それに乗
せて物語をつくりやすい。当然、受け容れる側の人
数も多い。
少年誌で描かれることが最も多いが、青年誌でも
切り口によってはできる。ストレートに野球をする
話は、年齢層の高い読者には引っかかりが少なすぎ
てちょっとむつかしいが、野球を絡めた人情ドラマ
とか、野球をベースにした青春ものとかいう形で描
くことは時々ある。
しかし、それにしたって野球漫画が掲載されるの
は、概ね読者が素直に漫画を求めている雑誌でだ。
つまり、マニアックな漫画が多く掲載されている漫
画誌で、野球漫画が連載されることは、ありえない。
『アフタヌーン』がマニアックな雑誌であることは、
説明しなくてもわかると思う。
創刊編集長が『ヤングマガジン』で大友克洋の『A
KIRA』を担当していたYさんから替わる時に、
、モーニング」と『イブニング』と『アフタヌーン』
をセットにするべく、より普遍的な内容へと大きく
変わるという噂もあったのだが、予想ほどではなか
った。今でも、かなり読者を制限するタイプの漫画
がたくさんラインナップに並んでいる。
読者を制限するというのは、読むのにある程度特
別なスキルが要るということだ。
日本の漫画読者は、長年の漫画体験から、非常に
高い漫画読書スキルを持っている。読者の側は気づ
かないでいることが多いと思うが、諸外国の漫画読
者と比べても、格段に違う。具体的には、圧倒的に
読解力のレベルが高い。漫画家がかなりのむつかし
い表現をしても、ちゃんと読み取ってくれる。コマ
を読み、構成を読み、ネームの向こう側まできちん
と理解してくれる。
しかし、それはコンビニでたくさん売られている
本の場合だ。一般的な漫画誌の場合だ。『アフタヌ
!ン』クラスだと、すべてがそうだとはいわないが、
慣れないと読みにくいものや、特殊な読み方の必要
なものも多い。
ちょっと表現と読者の敷居が高めな漫画誌をマニ
ア系と呼ぶとすると、マニア系漫画誌は、漫画編集
者の一種の憧れの対象だ。百万二百万部の雑誌を作
りたいと思う編集者も多いが、読者は少数でもちょ
っと変わった作者の創作意図をこそ優先した雑誌を
つくりたいと思う編集者も実は少なくない。どちら
が優れているかという問題ではなく、それは趣味の
問題だ。あるいは、経済的な問題だ。
『アフタヌーン』は、マニア系月刊誌の中では、最
も成功している本のひとつだろう。本誌の売り上げ
でペイできているとはとても思えないが、単行本の
売り上げを含めれば、マイナスではないのではない
か。あれだけマスにおもねらない漫画を揃えておき
ながらやっていけるのは、それは凄いことだ。ほか
の出版社でも、似た傾向のものは出しているところ
はあるが、決して大きい成功を収めているとは思え
ない。『アフタヌーン』は、作品の質を落とさず、
ある程度の数の読者を抱えることには成功している。
集英社に『ウルトラジャンプ』というマニア系の
月刊誌がある。


(本文P. 8〜9より引用)


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