BOOKSルーエのおすすめ本 画像 ★ 会員登録はこちら⇒ 
(1500円以上で宅配送料無料)

 ねたあとに
 
長嶋有/著 出版社:朝日新聞出版 定価(税込):1,785円  
第一刷発行:2009年2月 ISBN:978-4-02-250531-6  
e−honでご注文
 
小説家「コモロー」一家の山荘に集う個性的な友人たちとの、3年におよぶ夏の出来事をつづる、大人の青春小説。
 

本の要約

この山荘は、遊び始める前から、すでにルールが発生している。真夏に炬燵。ケイバ、顔、それはなんでしょう、軍人将棋…魅惑的な日々の「遊び」が、ひと夏の時間を彩ってゆく、大人の青春文学。朝日新聞連載の本格長編小説。

山荘での退屈な時間を過ごすために発明(?)された、独創的な「遊び」の数々……ケイバ、顔、それはなんでしょう、軍人将棋。魅惑的な日々の「遊び」が、ひと夏の時間を彩ってゆく。小説家「コモロー」一家の別荘に集う、個性的な(実在する!?)友人たちとの夏の出来事をつづる、大人の青春小説。第一回大江健三郎賞受賞作家による朝日新聞夕刊連載の単行本化。


2009年2月17日
  長嶋有先生にご来店いただきました。
  お忙しいところありがとうございます。

 ※サイン・コメントの内容は同じではありません
数冊に本書にサインをしていただきました。
弊社1Fにて、販売中!
(サイン本の販売は、品切れの次第終了といたします。サインは、ご来店のみの販売となりますのでご了承くださいませ。



オススメな本 内容抜粋

その一 ケイバ
久しぶりに豊満な胸というものをみた。
今、アッコさんは台所兼食堂にいて姿はみえないのだが、着替えのときにみた健康的な身体つき
が脳裏に残っている。
そして久しぶりに麻雀牌というものをみた。
私の向かいでコモローは、たくさんの牌の収められた薄い箱を手にしている。
「えい」コタツの天板に、箱ごと勢いよくひっくり返して載せた。がしゃ、と音が鳴る。
掌よりやや大きな箱を垂直に持ち上げると、牌だけが天板に残った。
縦四列、横に九列、箱に並んでいたままに整列している。ただ、模様をこちらに向けているのと、
背を向けているのと、バラバラだった。
「これがマンズ」といって、コモローは「二萬」と彫られた牌を指でつまんでみせた。
それから丸のついたかわいいのを一つ拾って「ピンズ」、棒が規則的に並んだのを「ソーズ」と
教えてくれる。
「知ってるよ」不機嫌に聞こえないように返事をする。マンズは漢数字で、ピンズとソーズは模様
の数で、一から九までの数字を示しているのだ。ずいぶん古い牌だが、象牙だろうか。
「しかし、なんだろう、この、粉」コモローは牌に触れた自分の人差し指の先を、親指の腹とこす
り合わせた。
「カビかな?」私も一個、手にとってみる。表面がかすかに白っぽい。
「これ、なに」手にとった牌をコモローに向けた。みたことのない模様が彫られている。
「それはイーソウ」これが?私が子供のころ鳥さん、と呼んでいた牌と、デザインがずいぶん違
う。
「カビてる?」居間の奥のヤツオおじさんがいった。
「なにがー?」台所兼食堂の(たぶん、食堂側ではなくてシンクの前に立っている)アッコさんが
返事をする。おじさんは、アッコさんに尋ねたのではないと正すような言葉を特には続けなかった。
「カビ、かなあ」コモローは他の牌は粉っぽいのか確かめようと、脇に置いた麻雀セットのケース
内の、残りの小箱に手を伸ばす。
私は小箱や牌ではなく、それらすべての収められたケースに触れてみた。四角いケースの持ち手
は小さく、指が五本入らない。
実家の、和室のタンスの上にオセロゲームと一緒に置かれていた麻雀ケースにも、持ち手がつい
ていた。タンスから卓上へという程度の移動に、持ち手は不要だろう(オセロや盤ゲームの類には
ついていなかった)。ある程度遠くに持ち運ぶ人がたくさんいるから、持ち手がついているのだ。
だけどそういえば、父も母も、誰も麻雀牌をどこかに持ち運んだりしなかった。
コモローはケースの中の二箱目を天板にあけてみたが、やはりどの牌も白く粉っぽい。彫り込ま
れた柄がかすんでみえる。全部で箱は四つあるらしい。二箱ずつ重なっていて、その間を区切る真
ん中の細長い箱に収められている、あれはたしか「点棒」だ。点棒の真ん中にはサイコロみたいな
ツブツブがある。
点棒の箱に指を突っ込む。得点のもっとも高い一万点棒の、大盤振る舞いみたいに赤と黒の点が
たくさんちりばめられたのを指で探す。サイコロの0と圏との両方が一本に交ざったような奴だ。
「これはどう」問われて首をあげる。
おじさんがもう一つ麻雀セットを持ってきたので驚いた。この家には麻雀牌がニセットあるのか。
二つ、目のは小学生の使う絵の具セットのようなビニールケースで、やはりプラスチックの持ち手
がついている。持ち手の両脇のプチプチしたボタンを二つ外すと、一つ目のと同様、浅い箱に牌が
詰め込まれていた。
これはどの牌も表をみせて収納されていて、黄ばんでいることが分かる。ケースと裏腹に牌は古
風なムード。
牌、浅い箱、それからケースにいたるまで、麻雀とはなべて四角いものなのだな。
「竹の牌」頭上からおじさんがいう。私とコモローは電気ゴタツに入ったまま頷いた。
「ケースに比べると、牌は高級そうですね」

(本文P. 5〜7より引用)


▼この本の感想はこちらへどうぞ。 <別ページでご覧になれます

e−honでご注文
BOOKSルーエ TOPへリンク
 ★ 会員登録はこちら(1500円以上で宅配送料無料)⇒
このページの画像、引用は出版社、または著者のご了解を得ています。
当サイトが引用している著作物に対する著作権は、その製(創)作者・出版社に帰属します。
無断でコピー、転写、リンク等、一切をお断りします。
Copyright (C) 2001 books ruhe. All rights reserved.