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 聖家族 生まれちゃったんだよ、俺たち。
 
古川日出男/著 出版社:集英社 定価(税込):2,730円  
第一刷発行:2008年9月 ISBN:978-4-08-771255-1  
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デビュー10周年の集大成。最大最長最高傑作。異能の一族・狗塚家の血と記憶を ってゆくと、浮かび上がるのは、まだ語られたことのない「もうひとつの歴史」。700年のスケールで“妄想の東北”を描く、異形の超大作2000枚!
 

本の要約

異能の者を輩出しつづける青森の名家・狗塚家。平成X年現在、孫たちは三人。半ば人ならざる存在の長男・牛一郎。死刑囚となった次男・羊二郎。胎児と交信する妹・カナリア。「異能の者」とは何か?「天狗」とは?「家族」とは?「故郷」とは?「日本」とは?排除され流亡せざるをえなかった者たちが、本州の果て・東北の地で七百年にわたり繋いで来た「血」と「記憶」。生の呪縛と未来という祝福を描く、異形の超大作。

■著者紹介  古川 日出男 (フルカワ ヒデオ)
昭和41年7月、福島県郡山市に生まれる。平成10年2月に『13』で作家として立つ。平成14年5月に『アラビアの夜の種族』で日本推理作家協会賞を、同年12月には日本SF大賞を受賞。平成18年5月に『LOVE』で三島由紀夫賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


オススメな本 内容抜粋


部屋はわずかに三畳あまりの広さしかない。


住人は一名。その性別は男で、年齢は二十六歳以上、
三十歳未満。いったい自分が何歳か、男は忘れた。


そこにあるものとないもの。寝具がある。自ら費用
を負担した、すなわち自弁の、それがある。男が身に
着けているのと壁に掛けられた衣類があり、これもま
た自弁である。洗面台がある。便所がある。テレビは
ない。
鉄扉がある。
室内での運動の自由はない。


運動がいっさい許可されていないわけではない。毎
日一時間、男は屋外での運動を認められている。つま
り、部屋を出てからの。それに入浴も許可されている。
四日に一度。
ただし、それらは部屋の内側にはない。


そこにあるものとないもの。強制労働はない。食事
は一日三回、ある。天井に蛍光灯があり、天井の隅に
スピーカーがある。歯ブラシがある。石鹸がある。タ
オルがある。
封筒がある。手紙が入っている。祖母からの手紙
だ。
つまり男には祖母がいて、つまり男は孫だ。
この部屋の住人は、男で、そして孫だ。


ばば様、と孫は言う。


孫は未決囚である。だから拘置所にいる。正確には
ここは拘置支所である。東京拘置所でも名古屋拘置所
でも京都拘置所でも大阪拘置所でも神戸拘置所でも広
島拘置所でも福岡拘置所でもない、それら七大拘置所
に属していない、しかし法務省矯正局の管理下にある
施設。孫はそこに拘禁されている。その拘置支所の敷
地は、刑務所の敷地に隣接している。
未決囚だが、孫にいずれ移送先の刑務所が決定する
機会は、来ない。
なぜなら、判決はとうに下されている。だが、その
刑は執行された瞬間にしか成立しない。すなわち懲役
を要しない。地裁、死刑判決。高裁、死刑判決。最高
裁、死刑判決。
孫は確定死刑囚である。だからそこにいる。拘置支
所の独居房に。未決囚として。


部屋はわずかに三畳あまりの広さしかない。部屋に
は時間がたまっている。しかし、時間には重さがない。
そこにあるものとないもの。


今日が終わり、今日は刑が執行されない。昨日はす
でに終わっていて、昨日は刑が執行されなかった。一
昨日もすでに終わっていて、一昨日も刑が執行されな
かった。いったい何日が過ぎたのか、孫は忘れた。い
ったい何週が。いったい何カ月が。いったい何年が。
時間がかつて流れていたことを、重さを有していた
ことを、孫は忘れた。
かわりにいろいろな声を聞いた。ここは袋小路な
のか?(そう)何の袋小路なんだ?(時間)時間のデ
ッド・エンドなのか?(そう)ばば様にはわかるか
な?(何が?)デッド・エンドってわかるかな?(無

 


(本文P. 10〜11より引用)


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