BOOKSルーエのおすすめ本 画像
 みなさん、さようなら
著者
久保寺健彦/著
出版社
幻冬舎
定価
税込価格 1,575円
第一刷発行
2007/11
e−honでご注文
ISBN 978-4-344-01415-2

 ★ 会員登録はこちら(1500円以上で宅配送料無料)⇒
 
団地の中でしか生きられず、そこに友達を作り、仕事を始め、恋をした少年。
 
みなさん、さようなら 久保寺健彦/著

本の要約

芙六小学校を卒業したのは全部で107人。みんな、団地に住んでいた。小学校の卒業式で起きたある事件をきっかけに、団地から出られなくなってしまった渡会悟。それを受け入れた悟は団地で友だちを作り、恋をし、働き、団地の中だけで生きていこうとする。「団地に閉じこもってたら、悟君の友だちは減る一方でしょ。さみしくない、そういうのって?」月日が経つにつれ一人また一人と同級生は減っていき、最愛の恋人も彼の前を去ろうとしていた。悟が団地を出られる日はやってくるのだろうか―。限られた狭い範囲で生きようとした少年が、孤独と葛藤に苛まれながらも伸びやかに成長する姿を描く、極上のエンターテインメントであり感動の物語。第一回パピルス新人賞受賞作。



オススメな本 内容抜粋

一〇七人

芙六小学校のおれたちの学年は、一学級二七人の四クラス編成だった。六年生の時一人いなくなり、
卒業したのは一〇七人。みんな、団地に住んでいた。
物心ついた時にはここにいた。都営芙六第二団地、6棟502号室。おれが生まれる三年前、竣工
間もない団地の応募倍率は高く、補欠でやっと入居できたそうだ。
三歳になる頃、ピーさんは離婚した。ピーさんというのは母親のこと。本当の名前を日奈といい、
父親がピーちゃんと呼ぶのを真似て、しゃべる言葉を増やしていたおれが同じように呼んだら、親に
向かってちゃんづけは駄目だとたしなめられ、とっさにピーさんと言い直したのが面白くて、そのま
ま呼び名になったらしい。後から何度も聞かされたが、おれはまったく覚えていない。
離婚した直後、ピーさんは看護師の仕事を再開し、おれは3棟の一階にある保育園に入れられた。
泣いてばかりいてなじむのに時間がかかり、この調子で小学校にきちんと通えるのか、ピーさんはず
いぶん心配したという。けれども、それは杞憂だった。おれは小学校を無遅刻無欠席で通した。その
かわり中学校へは、一日も登校しなかった。
中学校に行かないと宣言した時、ピーさんはなにも言わなかった。無理に通わせようとしたら、反
駁するだけの説明も用意していた。
中学校に行くのは時間の無駄だ。読んで、書いて、計算する力なら、これまでの学習で身について
いる。その三つの力があれば、生活する上で不自由はしない。おれは成績優秀な方だったし、もっと
いろんなことを勉強したい。でも、自分でやった方が能率がいい。理解力がまちまちな生徒とこっち
ゃにされ、三年も我慢しなきゃいけない理由はない。
14棟にはコミュニティセンター(住人はコミセンと呼んでいた)があり、一階は遊戯室とトレーニ
ングルーム、二階は視聴覚室と図書室になっていた。たいした規模じゃないが、蔵書は数千冊あった。
おれはそれを片っ端から読むことにした。興味がある本を読むのは楽しいだろうし、中学校に行くよ
りはるかにためになるはずだ。
だが、おれにしてみれば完壁なこの理屈は、中学校の担任には通用しなかった。
一年の時の担任は、横田という出っ歯で中年の女性教師だった。横田は頻繁に電話を寄越し、家に
もやって来た。ピーさんは仕事で大抵いなかったから、その都度おれが相手をした。初め横田は、気
味が悪いくらい優しく接していたが、「頑として意志を曲げようとしないおれに、だんだんヒステリッ
クになってきた。
「勉強は自分でもできるという、あなたの意見は分かりました。それはそれで立派な考えだと思う。
でもね、学校っていうのは、勉強するだけの場所じゃないの。同じ年頃の友だちを作って、集団生活
を通して社会性を身につける、そういうとっても大切な役割があるの」
「友だちならいるよ」
「どこに?」
「団地。学校に行ったって、どうせみんなここに帰ってくるから、別に平気。今日もキューちゃんと
か加賀やんとか、憲吾君と会う予定だし」
「あのね、友だちがいれぼいいっていう問題じゃないの。第一、あなたが言ってるのは、小学校の時
の友だちばかりでしょ。中学校には、他の小学校から来た友だちもたくさんいるの。そういう知らな
い人と交わって人間関係の幅を広げていくのは、大人になる上で絶対に必要なことなのよ」
「団地にたくさんいるから、もういいよ」
「じゃあ、あなた、一生ここに閉じこもって、誰ともかかわらないで生きていくつもり?」
そんなこと言ってないのに、と思ったけれど、いちいち訂正するのも面倒だし、団地から出るつも
りがないのは事実なので、うなずいた。それを見ると、横田はぽかんと口を開け、すぐにこめかみに
青筋を立てた。
「あなたはね、世の中のことがなにも分かってない。大人になったらどうやって生活するつもり?
いつまでも子供のまま、守ってもらえる立場じゃいられないのよ。いつかはあなたも社会に出て、仕
事して、自立しなきゃいけない時が来る」
「仕事なら10棟でする」
「ジュツトー?」
「10号棟。一階のケーキ屋で働く」
前から考えていたことだが、横田には屍理屈としか受け取られなかったようだ。
「あなたの世界は狭すぎる!どうしてもっと広い世界に目を向けないの!」
「なんでいけないの?友だちはたくさんいるんだし、働くとこが家のそばだと、なんかまずいか
な?通勤ラッシュとか関係なくて、楽でいいじゃん」


(本文P. 5〜7より引用)

 

▼この本の感想はこちらへどうぞ。 <別ページでご覧になれます



e−honでご注文
BOOKSルーエ TOPへリンク
 ★ 会員登録はこちら(1500円以上で宅配送料無料)⇒


このページの画像、引用は出版社、または著者のご了解を得ています.

当サイトが引用している著作物に対する著作権は、その製(創)作者・出版社に帰属します。
無断でコピー、転写、リンク等、一切をお断りします。

Copyright (C) 2001 books ruhe. All rights reserved.