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 漢方小説
著者
中島たい子/著
出版社
集英社
定価
税込価格 1,260円
第一刷発行
2005/01
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ISBN 978-4-08-774743-0

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みのり31歳、独身。元カレが結婚すると知ったその日から、原因不明の体調不良になった。行き着いた先は漢方診療所。悪戦苦闘する女性をユーモアで描く。
 
漢方小説 中島たい子/著

本の要約

みのり、31歳、独身。元カレが結婚すると知ったその日から、原因不明のふるえに襲われた。病院でも異常は見つからない。行き着いた先は漢方診療所。独特の視点を持つ東洋医学に戸惑いながらも、自分に何が起きているのか答を探していく、みのり。症状…失恋?ストレスに効くあなたのための処方箋(ストーリー)。第28回すばる文学賞受賞作。



オススメな本 内容抜粋

五人目の医者

耳慣れているサイレンだけれど、自分のために鳴っているのを聞くのは初めてだった。
遠くでポッと点るようにそれは鳴りはじめ、一直線にやってくると高音のピークで止ま
った。実家から間違って持ってきてしまったオヤジのパジャマを着て、ユニクロのパン
ツがはみでているお尻を玄関にむけて倒れているという、何か一つでもどうにかしたい
状況だったけれど、それどころじゃなかった。アパートの外階段を上る複数の足音がし
て、寝ぐせで髪がおっ立ってる大家さんと一緒に、水色の上っ張りを着た三人の救急隊
員が入ってきた。
「どうしましたか、ご自分で話せますか?」
私はセルフ・ロデオマシーンになっていた。突如として体が暴れだし、自らの生み出
す振動にかれこれ小一時間はガタガタとふりまわされていた。マシーンの回転数はます
ます上がり、いっそ振り落としてほしかったが、乗ってるのも暴れてるのも自分だから
降りようがない。私が何を言ってるのかよくわからないので、大家さんが代わりに私の
名前を彼らに告げた。私は流しの上にある近所の総合病院で出してもらった胃薬を指差
して、それを飲んだとたんこのように全身がふるえだしたことを彼らにわかってもらお
うとした。が、これまた指がかってに三拍子を振ってしまってポイントがさだまらず、
三入の救急隊員はヤカンやカレンダーや蛍光灯を見るはめになった。救急隊員の一人が
やっと薬を見つけ、内容をメモした。私より背の低い彼らに、よいしょ、と床から起こ
されて、あやつり人形のように他力で階段を下りて救急車のストレッチャーまで移動し
た。救急隊員は私を横にして、黄色の重たい毛布をかけてくれた。それに顔をうずめる
と、厳かにも嘔吐の残り香がした。それが本日のものなのか、歴史的に積み重なってき
たものなのか、そんなことは今はどうでもよくて、ただ毛布の暖かさがありがたかった。
大家さんも一緒に乗ってくれるのかと思ったら、部屋の鍵はちゃんと閉めといてあげる
から、と手をふって見送ってくれた。救急車の後部扉が閉じられて、ロケットが発射を
待つような間があった。
「えー、三十一歳の女性」
運転席の救急隊員は無線の相手に告げた。例の胃薬を出した総合病院の救急に受け入
れが決まったようだ。当然だ。再び私のためにサイレンが鳴り始め、私は白い曇りガラ
スの中の人になった。血圧を測っている救急隊員に、いつからどのように胃の具合が悪
いのですか?と聞かれた。
二週間前に六本木ヒルズに行ってからです。正確に言えば、昔つきあっていた人が北
海道から久しぶりに出てきて、彼が六本木ヒルズに行きたいと言うので連れていってあ
げたら、運悪くキアヌ・リーブスも来ていて、彼も見物客の中に分け入っておもいっき
り手をのばして携帯でキアヌを撮ったりしていたくせに、急に人混みに酔ってしまって、
植え込みに座りこんで彫刻に悪態をつき始めたので、しょうがないからそこから連れ出
し、六本木のはずれにあった妙に空いている居酒屋に入り、そこでオリジナルうどんを
頼んだら具に牡蠣がまぎれこんでいて、それを食べてから胃の具合が悪くなったんです。


(本文P. 5〜7より引用)

 

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