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 棄霊島 上
著者
内田康夫/著
出版社
文芸春秋
定価
税込価格 1,680円
第一刷発行
2006/04
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ISBN 4-16-324810-2

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浅見光彦、100番目の事件は、手ごわすぎる!惨劇の舞台は長崎の海に浮かぶ廃墟の島・軍艦島。「巨悪」に一人闘いを挑む名探偵浅見光彦の、100番目の事件に大団円はあるのか?
 
棄霊島 上 内田康夫/著

本の要約



浅見が五島列島で知り合った親切な初老の元刑事。娘夫婦との同居を前に、彼は静岡の海岸で死体となって発見された。清貧の元刑事のささやかな人生を、突然断ち切ったのは誰か。怒れる浅見に突きつけられる、過去最大の難問。百番目の事件に、大団円はあるのか。



オススメな本 内容抜粋

プロローグ



今回もまた、死体の第一発見者は連絡船の船長であった。時刻は午前八時を回ったばかりの
ことである。香焼港を出て、高島、端島と渡ってくる途中の中ノ島の磯に、死体が漂着してい
た。中ノ島は無人島で、建物といえば火葬場の施設があるだけだ。端島で人が死ぬと、この島
に運んで灰にする。いずれはそうなるにしても、死体が誰の手も借りずに中ノ島に流れ着くと
いうのは、何とも不気味なものではある。
台風が接近しているというので、タ方か、悪くすると午前中の便だけで、その後は欠航にな
る可能性がある。風波はまださほどではないが、台風の前兆であるうねりが高い。船は大きく
上下して、高島の港を出る時から端島の桟橋の状況が気になっていた。
端島には港がなく、船は島から直接、突き出した浮き桟橋に接舷してお客を下ろす。波の高
低差が激しいと、船から桟橋へ移るのが難しい。過去に何度か、飛び移りに失敗して海中に転
落する事故が起きている。
台風が南方海上にある日には、東南からの風波を避けるために、船は中ノ島の西側を通過す
る。島との距離を計りながら船を進めていて、船長は磯に打ち寄せられた死体に気づいた。
「またか……」と、舌打ちするように言って、傍らの二等航海士を顧みた。今年に入ってから
でも、すでに三人目の「遭難者」だ。
中ノ島には誰が言いはじめたのか「呪われた島」というイメージが定着してしまった。タネ
を明かせば、潮流の関係か何かで、端島から転落すると、あの場所まで運ばれるようになって
いるのかもしれないが、そうでなくても「火葬の島」という先入観がある。棄てられた霊魂た
ちが招き寄せるのだと、ことさらに恐ろしさを増幅させている。
連絡船からの通報を受けて、高島漁港の船に乗った大浦警察署高島派出所の二人の巡査が駆
けつけ、死体の収容作業に当たった。長崎市の中心部にある県警本部からはもちろん、大浦署
からでも時間がかかり過ぎる。天候がこれ以上、悪くならないうちに作業を終えなければなら
なかった。
死体はとりあえず端島の桟橋に揚げられた。身元はすぐに分かった。この辺りの住人なら誰
でも知っている、端島神社の宮司・阿波秋人だった。端島神社は祠に毛の生えたような神社で、
もちろん無住だが、月例祭や、島の住人の結婚式などの時だけ宮司が来島する。阿波は本来は
対岸の野母崎にある八幡神社の宮司で、端島神社のような周辺の小規模な神社や祠の祭司を、
いくつか兼務していた。
前日行なわれた端島神社の遷座式を主宰するために、阿波宮司が来島していたことと、直会
で夜遅くまで飲んでいたことは分かっていた。その後、宿舎に引き上げたと思われていたのだ
が、一夜明けたら死体になっていたというわけだ。
死体の解剖は長崎の病院で行われた。肺に海水を吸い込んでいるので、直接の死因は一応、
溺死だが、頭部に岩角にぶつかってできたと思われる挫傷痕があり、その時点で意識を失った
可能性もある。
大浦署から刑事と鑑識が六人、端島にやってきて、実況検分と関係者の事情聴取に当たった。
警察には、実況検分の当初から事故死iという認識があった。船長が「またか」と舌打ちし
たように、端島での事故死は頻発していた。炭鉱内の事故はいまさら騒ぐこともないが、ここ
数年、岸壁からの転落死が急増している。事故ばかりでなく、炭鉱不況で閉山が必至と言われ
るようになって、悲観するあまり死を選ぶ者もいるようだ。
今回のケースでは自殺は考えられないが、事故だとしても、宮司ともあろう人がという
違和感はあった。しかし、聞いてみると阿波はけっこうな飲んべえで、前の晩の直会で、した
たかにきこしめしたということだ。ほろ酔い機嫌で岸壁に出て、小便でもしようとして、濡れ
た岸壁に足を滑らせたのではないかという話も聞かれた。


(本文P. 7〜9より引用)




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