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 東京タワー オカンとボクと、時々、オトン
著者
リリー・フランキー/著
出版社
扶桑社
定価
税込価格 円
第一刷発行
2005/06
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ISBN 4-594-04966-4
 
母親とは?家族とは?普遍的なテーマを熱くリアルに語る著者初の長編小説。
 

本の要約
読みやすさ、ユーモア、強烈な感動! 同時代の我らが天才リリー・フランキーが骨身に沁みるように綴る、母と子、父と子、友情、青春の屈託。この普遍的な、そして、いま語りづらいことが、まっすぐリアルに胸に届く、新たなる書き手の、新しい「国民的名作」。超世代文芸クォリティマガジン『en-taxi』で創刊時より連載されてきた著者初の長編小説が、遂に単行本として登場する!

本書「帯」より
「安心し過ぎて気にも止めなかったこと。あまりに日常的で退屈だと思ってたこと。優しくいたいけどいつも後回しにしてきたこと。それは、オカン。それぞれの人にオカンはいて、それとなく違うけど、どことなく似ているオカン。本当に大切な何かが、こんなに身近にあるなんて気付かせてくれたリリー・フランキー。あなたの考察力と文章力に参りました。05年、堂々の第7回みうらじゅん賞受賞作品!」(イラストレーター みうらじゅん)「僕はリリーさんが好きなんです。だからリリーさんのオカンももちろん好きです。九州のカァチャン達は、リリーさんのオカンみたいに強くて優しい人が多いんですよ。たまにいるんです、「こういうカァチャンやったら良かったとになぁ」と思わせる友達のカァチャンって。リリーさんのオカンはその中でも特別「強くて優しい」です。なるほど、リリーさんの「人」に対する「思いやり方」「スジの通し方」はここから来てるんですね。ますますリリーさんが好きになりました。」(ミュージシャン 福山雅治)「この本は反則です。面白いうえに、すごく泣けてくるし、書店員なのに『売りたい!』って思う以上に、『読み終わったから貸そうか?』って言いたくなるし・・・。商売気も無くなるほどお勧めしたくなる、純粋でやさしい気分になれる本。本当にやっかいな、ストレート、ど真ん中の反則感動本です!」



オススメな本 内容抜粋


それはまるで、独楽の芯のようにきっちりと、ど真ん中に突き刺さっている。
東京の中心に。日本の中心に。ボクらの憧れの中心に。
きれいに遠心力が伝わるよう、測った場所から伸びている。
時々、暇を持て余した神様が空から手を垂らして、それをゼンマイのネジのようにぐるぐる回す。
ぐるぐる、ぎりぎり、ボクらも回る。
外燈に集まる納みたく、ボクらはやって来た。見たこともない明かりを求めて、それに吸い寄
せられた。故郷から列車に揺られて、心揺らして、引き寄せられた。
弾き飛ばされる者。吸い込まれる者。放り出される者。目の回る者。誰の力も及ばず、ただ、
その力の向かう方角に引っ張られ、いずれかの運命を待つばかりだ。
ちぎれるほど悲しいことも腹がねじれるほどに悔しいことも、すべてのわけのわからないこと
も抗うことはできず、回り続ける。
ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる。
そして、ボクらは燃き尽くされる。引きずり込まれては叩き出される。
ボロボロになる。
五月にある人は言った。
それを眺めながら、淋しそうだと言った。
ただ、ポツンと昼を彩り、夜を照らし、その姿が淋しそうだと言った。
ボクはそれを聞いて、だからこそ憧れるのだと思った。このからっぽの都ですっくりと背を伸
ばし、凛と輝き続ける惇いに強さと美しさを感じるのだと思った。流され、群れ、馴れ合い、裏
切りながら騙しやり過ごしてゆくボクらは、その孤独である美しさに心惹かれるのだと思う。
淋しさに耐えられず、回され続けるボクらは、それに憧れるのだと。
そして、人々はその場所を目指した。生まれた場所に背を向けて、そうなれる何かを見つける
ために東京へやって来る。
この話は、かつて、それを目指すために上京し、弾き飛ばされ故郷に戻っていったボクの父親
と、同じようにやって来て、帰る場所を失してしまったボクと、そして、一度もそんな幻想を抱
いたこともなかったのに東京に連れて来られて、戻ることも、帰ることもできず、東京タワーの
麓で眠りについた、ボクの母親のちいさな話です。
あの日、ボクたちは、その東京タワーの見える小さな部屋で、三人揃って、ぐっすりと眠った。
幼児の頃の記憶。多くの人はその頃のことを、ほとんど憶えていないという。しかし、ボクに
はいくつかのことがずっと残っている。それが、あやふやでもなく、朧げでもない。はっきりと
その時の空気の匂い、思っていたこと、小さな風景まで、今でも記憶の中に鮮明に残っている。
それは、たぶん、ボクは人よりも憶えるべきことが少ないからだと思う。
三歳までの記憶。ボクとオカンとオトン。その三人の家族が、ひとつの家で一緒に暮らしてい
た時の記憶。
家族で暮らした三年間が、それ以上、上書きされることがなかったから、ボクはその少ないエ
ピソードを記憶し続けることができているのだと思う。
ガチャーン……と凄い音がした。オカンと一緒の蒲団で寝ていたボクは驚いて目を醒ました。
もちろん、オカンも目を醒まし、蒲団の上で中腰になっていた。夜中だったと思う。子供だけで
はなく、大人も街も眠るような時間だったはずである。
玄関から、ばあちゃんの悲鳴が聞こえた。オカンの名前をばあちゃんが連呼している。廊下に
飛び出して行ったオカンは、玄関手前まで行って、またすぐ部屋に戻って来た。
すると、ボクを抱きかかえて、ラグビー選手のように座敷の方へ走り出した。
オトンが帰って来たのである。
そりゃ、自分の家なんだから帰って来るのは当たり前なんだが、なにを思ったか、この日のオトンは、いつも手で開けていたはずの玄関戸を足で蹴破って帰って来たのである。
ガラスのはめ込まれた木桟の格子戸を完全に破壊し、わめき散らしながら土足で廊下を進む
と、絶叫するばあちゃんをなぎ倒して逃げるオカンを追い回した。篭城事件に突入する警察の特
殊部隊でも、もうちょっと上品に入って来るだろう。こんな「おかえりなさいの風景」が、この
家にはたびたびあった。
逃げ惑うオカンと廊下を這いながら叫ぶばあちゃん。しかし、その日の獲物はオカンでもばあ
ちゃんでもなく、ボクだったようだ。
角に詰められたオカンから無理矢理ボクを引き剥がし、コートのポケットから三角の油紙を
引っ張り出した。油紙に包んだ中身は完全に冷めきった焼鳥で、それをボクに食えと、串のまま
口にねじ込んだ。
どうやら、お土産の焼鳥を息子に食わせたかったらしい。後にも先にも、起き抜けに焼鳥を
食ったのは、あの時だけである。
オトンはその頃、酒乱だった。酒に酔っては至る所で暴れていたらしい。
数日後、ウチの玄関は新しくなった。二枚合わせの引き戸だったのだけど、オトンが壊した一
枚だけを新調したので、そこだけ木桟が白く、ウチの玄関は変な玄関になった。
ボクはよく泣く子供だったらしい。そして、一度泣くと長泣きしていたそうだ。そういう男を
オトンは嫌う。たとえ、それが三歳児であってもだ。
あの時も泣きながら茶の間に行くと、オトンがステテコ姿でテレビを観ていた。そこでどれく
らい泣いたのかはわからないが、ある瞬間、オトンがなにか怒鳴ったと思ったら、ボクは持ち上
げられ、投げ飛ばされていた。茶の間から、廊下を横断して座敷の間へ。
宙に浮いていた。経験のない視点から見る廊下と座敷の境目。その一部始終を座敷から見てい
たばあちゃんがいた。ばあちゃんは茶の間からスローイングされたボクをアメフトのレシーバー
のように両手でダイビングキャッチしたそうだ。これは、後でオカンに聞いた。宙に浮いてから
先の記憶がないのは、投身自殺した人は地面に激突する前に意識の回線が切れてしまうという
が、それかもしれない。もし、あの時、ばあちゃんがうまくキャッチできずにファンブルしてい
たら、ボクは頭から落ちて、必要以上に陽気な子供になったかもしれない。
また、ボクは腸の弱い子供だった。しょっちゅう腹をこわして、そのたび、オカンが近所の病
院に連れて行った。その病院は女医の先生で、オカンは「あの先生は本当にいい先生よ。あの先
生がおらんかったら、あんたは死んどるばい」と後々まで言っていた。そこに連れて行かれると、
いつも尻に注射を打たれたが、泣かずに我慢するとオカンと女医さんがふたりして褒めちぎるの
で、ボクは痛くないふりをして、二人の喝采に酔いしれていた。
ところが、ある時、例によって腹の痛がるボクを女医さんの所に連れて行ったところ、たまた
ま、その日は休診日で、違う個人病院に行くことになった。そこで「まあ、普通の腹痛でしょう」
という診断を受け、腕に注射を打たれたボクはギャンギャン泣いた。


(本文P. 3〜7より引用)



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