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 となり町戦争
著者
三崎亜記/著
出版社
集英社
定価
税込価格 1470円
第一刷発行
2005/01
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ISBN 4-08-774740-9
 
ある日届いた「となり町」との戦争の知らせ。僕は町役場から敵地偵察を任ぜられた。だが音も光も気配も感じられず、戦時下の実感を持てないまま。それでも戦争は着実に進んでいた―。シュールかつ繊細に、「私たち」が本当に戦争を否定できるかを問う衝撃作。第17回小説すばる新人賞受賞作。
 

本の要約

天才現わる!? 見えない戦争を描いた衝撃作。ある日届いた「となり町」との戦争の知らせ。だが変わらぬ日常に、僕は戦時下の実感が持てないまま。それでも“見えない”戦争は着実に進んでいた―。「清澄な悪夢」「傑作」と選考会騒然の衝撃作! 第17回小説すばる新人賞受賞作。「卓抜な批評性か、無意識の天才か。いずれにせよ桁はずれの白昼夢だ」(五木寛之)。「このすばらしさを伝えるのは百万言費やしても不可能!」(井上ひさし)。



オススメな本 内容抜粋

第1章 となり町との戦争がはじまる

となり町との戦争がはじまる。
僕がそれを知ったのは、毎月一日と十五日に発行され、一日遅れでアパートの郵便受けに入れ られている〔広報まいさか〕でだった。
町民税の納期や下水道フェアのお知らせに挟まれるように、それは小さく載っていた。

【となり町との戦争のお知らせ】
開戦日九月一日
終戦日三月三十一日(予定)
開催地町内各所

内容 拠点防衛 夜間攻撃
   敵地偵察 白兵戦

お問合せ 総務課となり町戦争係

 

とりあえず最初に僕が心配したのは、通勤というきわめて私的なことだった。
もともとこの町に縁もゆかりもあるわけではない。
職場から車で四十分以内の通勤距離で駐車場付き、という条件で探し当てたアパートがたまたまこの町にあったという、それだけの縁。
住み始めてもう二年になるが、この町のことはほとんど知らないし、知り合いと呼べるような人もいない。
「戦争となると、やっぱりとなり町との道路は封鎖されるんだろうな」 となり町は、この舞坂町と職場のある地方都市の中間にあり、通勤路になるので気になった が、戦争がどんな形で行われるのか、どんな形で僕の日常の中に入り込んでくるのかは皆目わか らなかった。
開け放したままの部屋の窓からは、虫の音が遠く近く響き、いつもと同じ配列の 家々の灯りが見えた。
野球中継のテレビ音がきれぎれに漂い、時折遠く犬の鳴き声が聞こえる、 何も変わらない夏の夜だった。
そこには、そう、喩えるならば台風の前夜に感じるようなさし迫 った緊迫感など、微塵も感じることはできなかった。
僕は迫り来る戦争に対して、何ら心の準備も、現実的な面での準備もできないままに、開戦の、 九月一日を迎えた。

九月一日、僕は通常より三十分早くアパートを出た。
戦争がどんな展開をみせるのか見当がつ かなかったが、となり町とを結ぶ道路がもし通れなかったとしたら、大きく迂回して山を越えた ルートで職場に行かなければならないからだ。
残暑、というよりまだまだ暑い夏を予感させる朝 日を正面に受けながら、僕は国道へと車を走らせた。
国道は、確かに昨日までより多少混雑していた。
ただしそれは、夏休みが明けた九月一日には 例年のことだったので、特に戦争が始まったことによる混雑であるとは感じられなかった。
通り 過ぎて行く車にも、戦争の雰囲気を身につけた表情は垣間見られなかった。
僕は戦争の情報が何 か聞けるかと思い、ラジオをつけた。
いつものように、朝の時間帯にしては多少軽めのDJが、 少し古い音楽を紹介し、合間に天気予報や交通情報や今日の運勢が報じられた。
おかげで、今日 が洗濯日和であることや、高速道路で横転事故があったことや、今日の僕の運勢が「雷に打たれ たような衝撃的な出会いをする」ってことは知ることができたが、肝心の戦争の情報については、 何も得ることができなかった。
ラジオは、時報に続いて五分間の地元ニュースの時間になった。
若い女性アナウンサーが、い くつかのニュースに続いて、昨夜起こった、この地方都市ではめったにない通り魔殺人事件の情 報を、抑揚のない声で告げた。


(本文P. 5〜7より引用)



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