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 しあわせのねだん
著者
角田光代/著
出版社
晶文社
定価
税込価格 1470円
第一刷発行
2005/05
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ISBN 4-7949-6668-7
 
魅惑の電化製品。財布の理想的中身。母との忘れられない旅。その値段は?お金は何をしてくれて、何をしてくれないのか。直木賞作家が、日々と物欲のくらしから垣間見た、幸福のかたち。
 
しあわせのねだん 角田光代/著

本の要約

お金には無頓着。だけど、ほしいものはどうしてもほしい!そんな直木賞作家が、お金にまつわるひたむきな思いと体験を綴った。魅惑の電化製品。輝かんばかりの女になるための化粧品。母との忘れられない旅。それらはいくらで、手に入れたのはなんだったのか。お金は何をしてくれて、何をしてくれないのか。日々と物欲のくらしから垣間見た、幸福のかたち。



オススメな本 内容抜粋


昼めし977円

七時半に起きて牛乳を飲んで仕事場にいく。八時から仕事をはじめる。これが私の毎日
である。仕事を終えるのは、きっかり午後五時。週に三日は体を鍛えにいくので午後三時
半に終了。ちなみに土日は休み。残業、休日出勤、いっさいなし。
職種が人に与えるイメージというものは歴然としてある。バレリーナはケーキを馬鹿食
いしなさそうだし、教師はまじめそうな感じがする。お相撲さんはたくさん食べそうだし、
デザイナーは住まいもお洒落そうである。私は物書きなので、物書きに対するイメージと
いうものが欠落しているのだが、世間の対応を見ていると、それがどんなものかよくわか
る。
昼ごろ起きて夜じゅう仕事して朝眠る、ときとして何時間もぶっ続けで書いて何日も眠
る、というものが世間の人の抱く物書きのイメージらしい。仕事場を借りるとき、「夜騒
ぐに決まっている」という理由で断られそうになった。この不動産屋は、どういう理由で
か、物書き及びその周辺の人々の生活は昼夜逆転と信じていた。夜、大勢の編集者が仕事
場に出入りして、ぎゃんぎゃん騒ぎ、アパート内の住人の迷惑になると思っていたらしい。
漫画家と小説書きと雀士がごっちゃになったようなイメージである。
仕事は朝の八時から五時までしかしません。と説明すると、不動産屋はなんとなく気の
抜けたような顔で私を見て、結局部屋を貸してくれた。
私も職種にイメージを持っているからとやかくは言えないが、ケーキ馬鹿食いのバレリ
ーナも、食の細い相撲とりも、八時五時残業なしの物書きもいるのである。
役所の人間のようだ、とよく言われる。お役所勤めの人の勤務体系はよく知らないんだ
けれど、きつと似ているんだろう。自分の仕事に役所制度を導入したのは三十歳のときだ。
それまでは、どちらかというと不動産屋のイメージに近い生活をしていた。十時すぎに起
きて、朝昼兼用の食事をして、テレビが「いいとも」に変わるころ、あー仕事せにゃな、
と思いつつ「いいとも」を最後まで見て、それからようやく机について、ぼうっとして、
夜になると友達が数人やってきて宴会をして、空が白むころ眠る。
生活を切り替えたのは、三十歳の決意とか大人の自覚とかではなくて、そのとき交際を
はじめた男性が会社員だったからである。会社員とつきあうには会社員のような暮らしを
しないとすれ違う。飲みにもいけない。土日も遊べない。かような理由で交際相手の勤務
会社と同じ労働体系を導入したのである。このときは、九時から五時まで仕事をし、土日
休みであった。
その会社員とはわかれたのだが、労働体系だけは残った。以来ずっと、平日九時五時労
働でやってきたのだが、最近になって、なんだか仕事が増え、気がつけば時間が足りず、
でも残業はしたくないしスポーツジム通いもやめたくないから、一時間くりあげて、八時
五時労働になった。
人はなんにでも慣れるし、慣れるといろんなことがどうってことない、と最近思うよう
になった。
物書きの八時五時労働はめずらしいのか、さまざまな質問を受ける。たとえば、そんな
ふうに時間を区切って頭が切り替わるものなのか。五時五分前に筆がのりにのって止まら
なくなることはないのか。


(本文P. 9〜11より引用)



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