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 拝啓 沖縄で暮らしています。
著者
秋馬 ユタカ 著
出版社
飯塚書店
定価
税込価格 1470円
第一刷発行
2005/04
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ISBN 4-7522-6005-0
 
泣いた 笑った 出会った 救われた 人生をリセットした 内地移住者 11人の沖縄生活物語
 

本の要約


沖縄に魅せられ、沖縄に移住する人が増えています。しかに中には現実との
 ギャップに苦しみ行き場を失ってしまう人も発生しています。本書はすでに沖縄
 に移住して自己実現した人、癒され快復した人など十数人のドキュメンタリー
 です。「沖縄移住希望者」だけでなく、スローライフを標榜する人たちの指針とな
 りえる本です。


《主な登場人物》
 ♀ ユタ系の人に出会い精神世界に惹かれカウンセラーになった女性
 ♀♀ オーガニックカフェを本土テイストで貫き通した2人組
 ♂ 子供の頃から爬虫類大好きで、今はマンゴの生育に 命をかける県職員   
 ♂ 世界中を渡り歩いて沖縄に辿り着いたギタリスト
 ♀ 染織家に憧れ弟子入りしてから家を探した女性
 ♀ 社員旅行で下調べ、仕事も増えた美容師
 ♂♀ 一緒に暮らすためがむしゃらに住みかを探した先が沖縄だった
    国際結婚の二人



オススメな本 内容抜粋

序章


東京23時55分

満員電車から吐き出され、乗り換えのホームに降りて狭い喫煙コーナーで終電を待つ午後11時45分、何もすることがなくてただ繰り返される月曜日を待つ日曜日午前0時、自分のやりたいことさえ分からなくて教室の窓から見える風景に向けてためいきをつい
た午後3時。つないだ彼氏の手から伝わる温度が信じられなくて自分を嫌なやつだなと思った午後8時。
誰かが誰かの言葉に傷付いて、元気になる暇もなく日々がものすごいスピードで流れていく。
人の音が聞こえない町で暮らしているすべての人達は、こうした瞬間に「どこか遠くに行きたい」と思った経験があるのでは?こうした息苦しさと退屈からのエスケープを決め込んだ人達を見つけたのはずいぶん前のことだった。
若者達が深夜特急ではなく、『ASIAN JAPANESE』や『バックパッカー・パラダイス』なんかを片手に世界中を旅していた頃だ。
航空券は昔に比べて安くなり、中国の奥地にだってインターネットカフェができていて旅の情報は有り余っていた。
ほんの少しのお金と勇気があれば誰でも旅人になれた。
刺激的な一日、癒されていく一日。毎日が終わりなき夢のようだと感じていた。でも彼等は旅の終わりも知っていた。
ほんとに数少ない人間が永住の地として海の向こう側を選んだが、言葉や習慣の違いに加えて、ややこしいビザや永住権の問題があり、思うようにはいかないもので、再び自分が暮らす町に帰ってきて、最近のヒットチャートのような誰が誰だか分からないありふれた生活を、今だ胸の内で輝いている思い出とともに過ごしているのがだいたいの結末だったような気がする。
僕自身もそんな旅人の限界の苦さとせつなさを味わった一人だ。
旅と生活は違う。
自分に言い聞かせながら都会の片隅で小さな溜め息でごまかしながら生きていた。
そんな僕の頭の上を軽々と渡っていった人達がいた。
彼等の行き先は沖縄。
旅ではなく、生活の場として遥か南の島で暮らし始めていた。
時代は21世紀を迎え、世間で沖縄病なんて言葉がぽつぽつと言われ始めた頃だ。振り返ると70年代、80年代と沖縄移住ブームは確かにあった。
しかしヒッピーと呼ばれた人達とは明らかに違い、また売れっ子芸能人や文化人など金銭的生活に余裕のある人達とも違う、ごくごく普通の人達が強い日射しの下で、ごくごく普通に暮らしていた。
なぜ彼等は沖縄での暮らしを選択したのだろう?旅行では満足できなくなったのかなあ?
などと考えている間にも僕の幾人もの友人から消印が那覇や石垣といった住所変更のはがきが届くようになった。
生活は楽ではないことが、文字の裏側から読み取れたが、どうやら元気だけは東京に暮らしていた時よりずっとあるようだ。
そしてどの手紙も「一度遊びに来いよ!」という結びの一文の筆圧は強かった。最後に会った時は、昔話しかしなかった連中が未来の話をするようになっている!
なんで?昔から百聞は一見にしかずを信条にしていることもあり、僕は小さなカメラと万年筆をバッグに無造作に突っ込んで、ほんとに久しぶりに旅に出た。
飛行機の窓から見える海が青く変わった瞬間に、ここはどちらかというと外国だよなとワクワクしながら独り言を言ったのをなんとなく覚えている。
こんな感じで始まった沖縄取材だったが、出会った人達は誰もが生きる喜びに溢れていたような気がした。
もちろん内地的価値観では成功したとは言えないかもしれない。
沖縄で生活していくことは収入を確保することだけに限ってもサバイバルで、うちなーとの壁を超えて彼等のテリトリーに溶け込んでいくことはさらに難しい。
彼らが暮らす沖縄は、テレビや雑誌の中にある観光的沖縄ではない。
暮らすことの難しさを実際に目にすると楽園思想なんてどこかへ飛んでいってしまう。
内地で暮らすよりずっとハードライフなのだ。
でも彼等は胸を張って「ここは良いところだ」と言う。
その言葉の理由は、きっとここには人間の湿度と温度が存在しているからなのだろう、と彼等の話を聞く度に感じた。
それは良いことばかりではなく初めて食べるドリアンの味にも似た強烈な価値観の転換を強いられるものであり、慣れることがどうしてもできずに、嫌悪感だけを持って内地に戻る人、もしくは帰りたくても帰る場所がなくただ年を重ねていく人もたくさんいることも同じに知らされた。
でも暖かい空気の虜になるとこの島はどこよりも居心地がよく心に優しいそうだ。

(本文P. 10〜13より引用)



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