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 デセプション・ポイント 上
著者
ダン・ブラウン/著 越前敏弥/訳
出版社
角川書店
定価
税込価格 1890円
第一刷発行
2005/04
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ISBN 4-04-791493-2
 
激戦の大統領選中に、その科学的大発見はなされた―。“偽りと欺きの極地”=ホワイトハウスで繰り広げられる、何重もの駆け引きと陰謀。『ダ・ヴィンチ・コード』のダン・ブラウン、待望の日本最新刊!!
 

本の要約

国家偵察局員レイチェルの仕事は、大統領へ提出する機密情報の分析。現在、ホワイトハウスは大統領選の渦中にあり、現職と争っている対立候補は、なんと彼女の父だった。選挙戦はNASAに膨大な予算を費す現政府を非難し、国民の支持を集めている父が有利に進めていた。そんなある日、レイチェルは直々に大統領から呼び出される。NASAが大発見をしたので、彼女の目で確かめてきて欲しいというのだ…。



オススメな本 内容抜粋

プロローグ

索漠たるこの地において、死は数かぎりない形で訪れる。
地質学者のチャールズ・ブロフィーは苛酷なまでに広壮なこの土地で長年生き抜いてきたが、その身に降りかかろうとしている不当でむごい運命に対してはなんの覚悟もできていなかった。
地質感知装置を載せた櫨を引いて凍土帯を横断していたブロフィーの四頭のハスキー犬が、急に速度をゆるめて空を仰ぎ見た。
「おい、どうした」ブロフィーは言い、権からおりた。
嵐を予感させる厚い雲の向こうで、ッインローターの輸送用ヘリコプターが、軍用機らしい機敏な動きで氷河の頂に沿って低く弧を描いている。
妙だな、とブロフィーは思った。
この極北の地であんなものを見かけたことはなかった。
ヘリコプターはざらつく鋭い雪片を巻きあげて、五十ヤードほど離れたところに着陸した。犬たちが警戒の吠え声をあげる。
ヘリコプターのドアが開き、ふたりの男がおり立った。白い全天候型スーツに身を包んだそのふたりは、ライフルを持って差し迫った様子でブロフィーに近づいてきた。
「ドクター・ブロフィー」男のひとりが呼びかけた。
ブロフィーは面食らった。「わたしの名前をなぜ知っている。きみたちはだれだ」
「無線機を出してくれ」
「なんだって?」
「いいから言うとおりに」
とまどいつつも、ブロフィーはパーカから無線機を取り出した。
「緊急の声明を送ってもらいたい。周波数を百キロヘルツに落として」
百キロヘルツだと?ブロフィーはすっかり混乱した。
そんなに低い周波数を受信できる人間がどこにいるのだろう。
「事故でもあったのか」
ふたり目の男がライフルを構え、銃口をブロフィーの頭に向けた。
「説明している暇はない。さっさとやれ」
おののきながら、ブロフィーは送信周波数を調整した。
ひとり目の男が、数行の文字がタイプされたカードを差し出した。
「このメッセージを読みあげて。さあ」
ブロフィーは文面を見た。
「どういうことだ。これは事実に反する。わたしはこんな」
ライフルを持った男は地質学者のこめかみに銃口を強く押しつけた。
ブロフィーは震える声でその奇妙なメッセージを読んだ。
「よし」ひとり目の男が言った。
「では犬といっしょにヘリに乗ってもらおう」
銃を突きつけられたまま、ブロフィーはいやがる犬たちを橇ごと搬入出用のスロープヘ追い立てて、貨物室まで導いた。
全員が乗りこむなり、ヘリコプターは離陸し、西をめざした。
「きみたちはいったい何者だ!」ブロフィーは叫んだ。パーカの下で汗が噴き出す。それにあのメッセージはどういう意味なのか。
ふたりの男は無言だった。
ヘリコプターが高度をあげると、あいたドアから容赦なく風が吹きこんだ。荷を積んだ橇につながれたまま、四頭の犬が哀れっぽく吠えている。
「とにかくドアを閉めてくれ。犬たちが怯えているのがわからないのか」
男たちは答えなかった。
高度四千フィートまで上昇したところで、ヘリコプターは急旋回し、氷の裂け目が連なる地帯へ移動した。
だしぬけに男たちが立ちあがった。ひとことも発せず、重い荷を積んだ橇をつかみ、開口部から外へ押し出した。
途方もない重さに抗って犬たちがむなしく暴れるのを、ブロフィーはぞっとする思いで見つめた。
四頭は悲しげな咆哮とともに機外へ引きずり出され、またたく間に姿を消した。
絶叫して立ちすくむブロフィーを男たちが捕らえ、開口部の近くへ引き連れていった。
恐怖で感覚を失いながらも、ブロフィーはこぶしを振りまわして、突き落とそうとする強烈な力に懸命の抵抗を試みた。
その甲斐はなかった。
数秒ののち、ブロフィーは地表の裂け目へ向かって真っ逆さまに落ちていった。

キャピトル・ヒルの近くにある〈トウロス〉は、子牛肉と馬肉のカルパッチョという政治的に
正しくないメニューが自慢のレストランだが、皮肉にも、ワシントンの有力者たちが朝食会に常用する場所となっている。
けさの〈トウロス〉は繁盛していた─銀器のふれ合う音、エスプレッソ・マシンの響き、そして携帯電話の話し声が渾然と不協和音を奏でている。
その女性客がはいってきたとき、給仕長は朝のブラディ・マリーをこっそり口にしているところだった。
とっさに笑顔を作って振り返る。
「いらっしゃいませ。おうかがいいたします」
それは三十歳代半ばと見受けられる魅力的な女性で、ローラ・アシュレイのアイボリーのブラウスに、折り目のついたグレイ・フランネルのパンツ、上品なフラット・シューズといういでたちだった。
背筋がまっすぐに伸び、顎はわずかに持ちあがっているが、傲慢な印象はなく、芯の強さだけが感じられる。
明るい褐色の髪は、ワシントンで最も人気のある”女性キャスター風”ー艶やかなカールを肩下でふんわりと波打たせたスタイル─に形作られている。
セクシーでありながら、人並み以上に聡明であろうことも伝える絶妙の長さだ。
「少し遅れてしまって」女性は控えめな口調で言った。
「セクストン上院議員と朝食の約束をしているんです」
給仕長は思わず身震いを覚えた。
セジウィック・セクストン上院議員。
ここの常連で、いまやこの国で最も有名な人物のひとりでもある。
先週のスーパー・チューズデイに十二の共和党予備選挙区すべてで圧勝し、党の大統領候補の座がほぼ約束された。
この秋に、現職の大統領からホワイトハウスをまちがいなく奪うと見る者も多い。
最近では、セクストンの顔はあらゆる全国誌の表紙を飾り、”浪費をストップ、変革をスタート”という選挙スローガンがアメリカじゅうのいたるどころに貼られている。
「セクストン議員はボックス席にいらっしゃいます」給仕長は告げた。
「失礼ですが、お客さまは?」
「レイチェル・セクストン。娘です」
なんてまぬけなんだ、と給仕長は思った。
どう見てもそっくりなのに。
上院議員の射貫くようなまなざしと垢抜けた身のこなし一颯爽たる貴族を思わせるあの洗練された雰囲気は、この女性にも備わっている。
端正な容姿がそのまま受け継がれたことは疑いない。
ただし娘のほうは、父親が見習ってもいいほどの礼儀正しさと謙虚さにも恵まれているようだ。
「ようこそご来店くださいました、ミズ・セクストン」
店内を奥へ案内するとき、男性客たちの視線がー遠慮がちなものも、無遠慮なものも上院議員の娘に浴びせられるのに気づき、給仕長はきまり悪さを覚えた。〈トウロス〉はもともと女性客の少ない店だが、これほどの容貌の女性が来ることはきわめてまれだった。

(本文P. 7〜11り引用)



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