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 ガンに生かされて
著者
飯島夏樹/著
出版社
新潮社
定価
税込価格 1260円
第一刷発行
2005/03
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ISBN4-10-469402-9
 
天国で逢おう  妻と幼い子ども4人を残し 著者は逝った ─ 緊急出版 !
 

本の要約


38歳、妻と幼い子ども4人、余命宣告3カ月――。ベストセラー『天国で君に逢えたら』の著者が、頑強な身体に突然降りかかった病を逆に人生の糧とし、日々の思いを文字に映しはじめた。人生とは、家族とは、そして……。余命宣告期限を超えて二〇〇日余り綴りつづけた“命の記録”、緊急出版!



オススメな本 内容抜粋

はじめに


─ どうかパパがぐっすり眠れますように。
お腹のガスが抜けますように。
二〇〇五年まで生きられてありがとうございます。
二〇〇六年まで生きられますように。

僕は、四人の子どもたちの祈りに少々慌てた。
どうせだったら、二〇二〇年に変えてくれ!

二〇〇二年五月、父の死とともに僕は自分の病気を知った。
悪性の肝臓ガンである。
それまで心身症に罹ったことはあったが、まさか自分がガンになるとは想像もしていなかった。
そして、二年後の二〇〇四年五月、がんセンターで余命宣告を受けた僕は、最期の場所としてここハワイを選び、その三ヶ月後、家族とともに移住を決意した。
移住して四ヶ月、いよいよ二〇〇五年が明けようとしている。

大晦日、夜二時。
双子の次男・吾郎と妻と僕の三人だけが、新年に向け辛うじて起きていた。
年越しを楽しみにしていた長女の小夏、長男の寛と三男の多蒔(タマキ)は、疲れたらしくいつの間にか熟睡している。


「起こすのも可哀想だから、今日はここにいる三人だけでお祈りしようか?」
僕ら夫婦は、本当にやるべきこと以外は子どもを自分勝手にコントロールしたくない。
ベッドルームから見える住宅地では、バチバチバチと新年恒例の爆竹が鳴り響いている。
住人たちが年に一度堂々と花火が出来ると、はしゃぎまくっているようだ。
僕が寝るリクライニングベッドの両端に二人が立ち、腫れたお腹に手を当てた。
ボソッと吾郎が心配そうに言った。

「みんな花火や爆竹で騒いで、鳥たちは大丈夫かなあ……」
吾郎は少々だらしないところもあるが、繊細な心も併せ持つ子どもだ。
優しい言葉にちょっと安心していると、小夏がタマキを連れて祈りにやってきた。
熟睡していたはずの寛までいる。
あと一時間で、僕は年を越す命を与えられる。
子どもたちもそれを知っていたのか、みんなが眠気を払い集まった。
妻も僕もとても嬉しかった。
家族がひとつになった。
みんなで僕の命の時間の延長と病気の回復を心から祈ってくれた。
そして、願い終わると「オヤスミー」と消えていった。
「家族っていいなあ」と、僕は心から思った。
ふと、ある思いが心に浮かんだ。僕は、いや僕ら家族は、大黒柱が健康だったら、こんなことを感じ取っただろうか?みんなで一丸となっただろうか?無理だったに違いない。
もっと他の快楽、享楽、どうでもいいことに、心を振り回されていただろう。
だから、ガンになって、苦しんでいることにありがたみを感じた。
全く不思議な思いである、「ガンになってよかった」なんて……。
爆竹の煙の中にそびえ立つダウンタウンを、マスクをしながら一人眺めていた。
このところ、白血球の値がかなり悪く、感染症にかかり、免疫力も相当落ちた。
こんな状態がもう二週間も続いている。
波回りのいい日もあれば、そうでない日もあり、それはさっぱり病者の側には読めない。
巷の人は快楽を求めてはしゃぎまわっている。
でも、僕は不思議と何とも思わない。
うつ病がまだ軽かった頃、一年間かけて、まるで牛が反芻するように読んでいた本に書かれていた言葉が浮かんだ。
「どうしたらすばらしい、愉快なことが楽しめるか」を問うかわりに、「今どんな善いこと、正しいことをなし得るか」をたずね、あるいは、この究局の目的のためにどのように自分の状態を改めたらよいかを絶えず問うことに、あなたの全思考力を向けているならば─あなたが住むこの世界について、全く違った、より満足すべき観念が得られるであろう。(中略)

そうなると、さしあたり、善を行う機会さえあれば(この機会がないことはまれだ)、あなたの生活がいくぶん苦しかろうと楽であろうと、また、あなたが健康であろうと病気であろうと、そんなことはこれまでより、ずっとどうでもよくなるだろう。(ヒルティ『眠られぬ夜のために』草問平作他訳/岩波文庫)

病に翻弄され続ける今、僕はこの言葉の持つ深い意味を心の奥底で理解する。


アロハタワーのはるか沖、サンドアイランドに、大きなまん丸の打ち上げ花火がドーン、ドーンと上がり始めた。

二〇〇五年一月一日、ハッピーニューイヤー。
一〇万人に一人もいない珍しい肉腫との付き合いも、はや二年半が過ぎたことになる。
二度の外科手術を含む、一七回の入院生活を経ての余命宣告。
二〇〇二年から始まったこの生活には、困難もあった。
涙もたくさん流した。
酷いうつ病で引き籠もり、父として糧を何も得られず、ただただもう自分の手で人生を終わりにしたかった。
しかし、今は違う。
僕をまだ必要としている人がいて、僕にはやるべきことが山ほどある。
ガン、うつ病、パニック障害……それらは全て僕にとっては必要だったことかもしれない。
病を得なければ、『天国で君に逢えたら』を世に送り出すことなど、絶対になかっただろう。

全てが善きものに変わった。いや、そう思えるようになった。

なぜだろう?

 

(本文P. 9〜13より引用)



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