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 ご新規熱血ポンちゃん
著者
山田詠美 /〔著〕
出版社
新潮社
定価
税込価格 1365円
第一刷発行
2004/11
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ISBN 4-10-366810-5
 
また 来たよ  ポジティヴに ポンチな日々を送る、ポンチャンのポリシー ちょっと ポエジー。
 
ご新規熱血ポンちゃん 山田詠美 /〔著〕

本の要約

座右の銘は「ビバ自分!」。ポジティヴにポンチな日々を送るポンちゃんの元気の秘密。  テロにも負けず雪のニューヨークをがしがし歩き、締め切りにもめげずやくたいもない死語の発掘に励み、でぶにも負けず旨い肴を作っては熱燗で一杯。人生のささやかな喜びを追求しつつ、ポンちゃんは今日も行く! 「書を捨ててバーに行こう」など珠玉の(笑)言葉がちりばめられた大人気エッセイが、装いも新たに登場。



オススメな本 内容抜粋

ポン式美味追求

この間、夏の試験まっただ中の知り合いの大学生の男の子から電話がかかって来た。明日までに、特殊な職業を持つ人についてのレポートを書いて提出しなくてはならないと言う。
で、他の学生が滅多に知り合えないであろう職種の作家である私を思い出して、あ、ラッキー、と思ったのでしょう。でもねえ……。
「どうして作家になろうと思ったんですか」
とか、
「小説書くのって大変ですか」
などの、今でも、どうしようもないインタビューアーがするこの手の質問には、素人さんなので目をつぶってあげよう。しかし。
「詠美さんて、文学賞とか受賞してるんですよね」
「うん、まあ」
「なんていうのもらったんですか?」
「いっぱいもらい過ぎて忘れたよ(これは精一杯の嫌味)」
「その中で有名なのづて何ですか?(一向に意に介してないご「……直木賞とか?」
「あ、そうですか。で、ナオキショウって、どういう字を書くんですか?」
……まじかよ?このやりとりって信じられます?はっきり言って気が狂いそうになったよ。
これって、今の大学生のアヴェレージなの?それとも、文学部以外は、そんなもの知らなくても良いのか?それでは、もしかしたら、アクタガワショウも、漢字で書けないのだろうか。
直木三十五も芥川龍之介も知らないのだろうか。
まさか賞をショウタイムのショウと思ってるんじゃねえだろうな。
うおーっ。
文部科学省も、私の作品を検定にかけて、あーだこーだ言ってる場合じゃないだろう。
漱石と鴎外を、すぐさま教科書に復活させなさい。
余計な親切をするから、学生の脳みそが退化するのである。
色々と知った後で、文学なんか嫌いだと思うのは自由。
直木賞も芥川賞も何の興味もない。
そう感じるのも結構。しかし、直木賞受賞者のレポートを書こうと思った時に、その存在すら知らないってのは、問題なんじゃないのか。
必要な時に取り出せる。
知識って、そうあるべきものなんじゃないのか。
それが出来ないものに取り掛る場合、調べておくか、手を出さないで影くか、その選択を頭に置く見識すら、学校では教えないのか(もっとも、学校ではなく、本人の問題かもしれないが)。
ああ、この学生さんは、一応、東京六大学と呼ばれるところに籍を置いているのだが……日本の未来は暗い。
と、ここまで書いて思ったが、私は、直木賞も芥川賞も知らない、という人が決して嫌いではない。
それどころか、私の友人にもそういう人は少なからず、いる。私だって、物書きになる前に、文学賞のシステムなんか何ひとつ知らなかった。
では、何故、腹立たしく思うのか。
それは、彼が、何ひとつ調べようとはせずに門外のことに手を出そうとしたこと。
そして、彼が大学生であること。
その二つに尽きるだろう。
学生が楽しようとしちゃいかんよ。
楽したきゃ、私みたいに、さっさと途中で止めて、他の道を捜したらどうだろう(もっとも、こっちの方が本当は大変なんだけどさ)。
学生の本分は勉強である。それが出来ない私のような奴は、真面目な学生の邪魔をしないよう、すみやかに学校を去り、ドロップアウト道を極めた方がよろしい。そうすれば、作家にはなれるかもしれない。
しかし、教師にはなることが出来ない。そこがつらいところだ。
と、いうのも。
この間、知り合いの男の子と喋っていたら、彼の初体験は、高校の古文の先生だったと言うのだ。
え?祇園精舎の鐘の声、とか朗読しながらしたんじゃないでしょうねっ、という私の言葉に、彼は笑っていたけれど、これって、すごーく、ロマンティックな背徳ではないか。
向田邦子さんの「隣りの女」という作品では、山手線の駅名を順番に口にする男が描かれていたが、男女がお布団の中に入って語る言葉って、すごーく興味ある。
セックスとかけ離れていれぱいる程、睦言はエロティックである。
古文なんてさー、いいよねー。
で、話は戻り、私だって教職を取っていたのだから、きちんと卒業さえしていれば、高校生の耳許で平家物語を暗誦してあげられたのになーという不埒な後のまつりの話に行き着くのである。
そして、齋藤孝さんの向こうを張って、『裏本・声に出して読みたい日本語』を監修するのである。ひそやかに、口承文学の発展に貢献する私。
などと悦に入っていたら、女友達が言った。そうかなー、あの時にぺらぺら喋ってる男ってうざくない?うーん、人それぞれである。黙々とことに及んでる男より、ずっと楽しい、と私などは思うのだが。これって、言葉をなりわいとする人間の性なのか。
以心伝心って好きじゃないなあ。

(本文P. 7〜9より引用)



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