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 間宮兄弟
著者
江国香織 /著
出版社
小学館
定価
税込価格 1365円
第一刷発行
2004/10
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ISBN 4-09-387499-9
 
だって間宮兄弟を見てごらんよ。いまだに一緒に遊んでるじゃん。“そもそも範疇外、ありえない”男たちをめぐる、江国香織の最新恋愛小説。
 

本の要約
三十路を過ぎても一緒に暮らす兄 明信と弟 徹信は、共に内気で、モテない三枚目。いわゆるいい人の二人がそれぞれ胸に抱く、ほのかな恋の結末は。女性の心象をきめ細やかに表現してきた直木賞作家 江國香織の“そもそも範疇外、ありえない”男たちをめぐる、最新恋愛小説。



オススメな本 内容抜粋

夏は、兄弟のどちらにとっても好もしい季節だった。
そして、自分こち夏を楽しめるようになったことを、互いに口にだして確認し合う。
「美しい季節だなあ」
とか、
「汗をかくって気持ちがいいよな」
とか。ベランダさしにうす青い空が見え、網戸を通って弱い風が入る。
兄弟は揃ってあぐらをかき、そうめんを畷っていたりする。あるいはカレーライスを食べている。
様々な香辛料を調合し、野菜がすっかり溶けてしまうまで煮込むカレーは、徹信の得意料理だ.
「風鈴、買おうか」
徹信が言えば、
「いいね。ノリチチのとこに売ってるかな」
と、明信がこたえる。
ノリチチというのは近所の商店街で雑貨屋を営むばあさんのあだ名で、ばあさんのくせにやけに胸が大きく、夏になるときまって着ている簡易ワンピースのウエストのあたりに、もったりと豊かにのっかっているのが子供心に印象的(というか驚異的)で、かつて二人で命名した。
それから二十年以上の時が経っているのに、ノリチチは記憶の中の彼女とおなじくらい年をとったばあさんで、おなじくらい胸が大きく、依然として雑貨屋を営んでいる。
夏のあいだ、明信は勤め先の酒造メーカーから、必ず六時前に帰宅する。
贔屓のプロ野球球団の、試合のスコアをつけるためだ。
去年、野球専門のケーブルテレビに加入したので、一三五試合全てを観ることができる。
子供のころのように、テレビ中継終了後にあわててラジオに切り換える必要もない。
兄ほど熱心ではないが、徹信もまた、おなじ球団を贔屓にしている。
稀なことだが、仕事の都合で明信がどうしても早く帰宅できないとき、スコアをつけるのは徹信の役目だ。
学校職員をしている徹信は、残業が少ない上に、夏休みが長い。
もっとも本人に言わせれば、
「完全な休みはそれほど長くないんだ。植木に水をやったり、電気や水道のメンテナンスもしなきゃならないからね」
ということになるのだが、いずれにしても夕方明信から電話がかかり、「悪い。頼む」
と言われれば、徹信は忠実に、そしてはりきって、その日の試合を記録する。
何をおいても。
兄弟は、生まれたときからこの町に住んでいる。
はじめは比較的大きな家に一家四人で、現在は二LDK家賃十三万八千円也のマンションに兄弟二人で。
彼らはずっと一緒に暮らしてきたし、彩しい量の思い出を共有している。徹信にとっては三十二年分、明信にとっては三十五年分の思い出だ。
「家族で神戸に旅行したときのこと、憶えているか?」
その数々の思い出について、彼らはときどき語り合う。
「憶えてるよ。旧いホテルに泊まって、夜中までトランプをして騒いで、父さんも母さんもあんまりはしゃいで大声で笑うから、ホテルの人が来て叱られた」
「そう、そう」
この話をするとき、二人はきまってくつくつ笑う。
「ベビーゴルフっていうのをしたね」
「した、した」

(本文P. 5〜7より引用)



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