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 にっぽん・海風魚旅 3
小魚びゅんびゅん荒波編/〔著〕
著者
椎名誠/著
出版社
講談社
定価
税込価格 1890円
第一刷発行
2004/11
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ISBN 4-06-212559-5
 
船は出ていく 魚がはねる。 風わらい顔 演歌雲。ああ、海は今日もでっかいな。
 

本の要約

船は出ていく 魚がはねる。風わらい顔、演歌雲。ああ、海は今日もでっかいなあ。しかし、今日もハラへったなあ。

港みなとに冷たいビール。海道をいくジグザグ旅に今夜はカツオかアンコウか…。

 



オススメな本 内容抜粋

新ワカメと説教寿司

ある日フト「房総半島は今どうなっておるのか?」と思ったわけだ。
東京で生まれ小さい頃千葉ですごしまた東京に戻ったので、海へ行くというと普通は東京湾であり、いちばん馴染みのある海だ。
伊豆半島、房総半島はこれまでたびたび出かけている。
両半島とも東京から二時間程度のところにありながら奥地に入っていくとずいぶん田舎の町に来たものだなあと思わせる感覚的な距離の隔たりがある。
そこが面白い
。飛行機で日本の北のほうから帰ってくるとき、房総半島の上空を通過する。
房総半島の緑が年々食い荒らされ減少してきているのがわかるから、この風景はいつも哀しい。リゾート開発、宅地開発、ゴルフ場開設、河川工事、道路工事等々によってこの数十年房総半島は無惨な虫食い状態になってその緑を殆ど失ってきた。そういう風景を眺めるのはどうも辛い。
いきおい余程の用がない限りはここには行かなくなってしまった。
今は東京湾アクアラインができてその距離もぐんと縮まっているが、これを利用したのも一回だけだ。
「よし、それでは今回は近場のこの半島をぐるりとひと回りしてみよう」
と思ったわけで、十一時に都内の仕事場を車で出ると、平日ということもあり首都高速からアクアラインを経由し一時間とちょっとで館山に着いてしまった。
館山市内のうどん屋で昼飯を食い、洲崎のほうへ向かった。
「見物」という面白い地名をもつ海岸で地元の、これはもう一目で漁師や漁業関係者ではないとわかる普通の格好のおじさんおばさんが波打ち際で何か漁のようなことをしている。
手に手に棒状の道具を持ち、波のまにまにそれを突き出し何かを手操り寄せている。
近くに行ってよく見るとワカメをとっているのであった。
一人のおじさんに聞いてみると、海が荒れ大きな波が打ち寄せている翌日は沢山の新ワカメが打ち上げられてくるので、こうやってそれぞれ棒の先に鉄の道具をくくり付けた自家製の“ワカメ引っかけ器”みたいなので採っている。
背中には籠などを背負ってみんな本気である。
新宿のけたたましい雑踏をほんの一時間ほど前に見ていたのに、目の前にはワカメひっかけ団がタタかっている風景がある。
うれしいではないか。
間もなく洲崎に到着した。
岬のほうに歩いていくと、庭にワカメを干しているおじさんがいた。さっき海岸で採ったワカメをこうして干しているわけなのだった。
一日干すと長期間保存できるおいしい半乾燥ワカメができるという。
ワカメと一緒にカジメも流れてくるが、これは肥料にするそうだ。
モグラよけだというペットボトルの風車があちこちでくるくる回っている。
そこを通り抜けて岬の先端に出た。
起伏の多い枯れた草地に見え隠れに若い人達がいる。
いったい何をしているんだろう、と様子を見てみると若い男女はそれぞれ両手にスコップや小さな金槌のようなものを持っている。
ここでもまた何か獲物を探しているんだろうか。
しかしこんな所に何が?不審に思って聞いてみるとそうではなくて、大学で地理学を専攻している学生たちが一泊二日の実地研修をここでしているのであった。土と植生などを調査しているという。
「ふーむ」と頷くしかない。
そのまま白浜町へ向かった。
けれど道々たいしたこともなく、すぐにホテルに着いてしまった。あたりも暗くなってきた頃、一杯やろうと町に出た。しかしあたりは真っ暗なのである。
通りかかった人に「どこかこのあたりで一杯飲めるような店はないですか」と尋ねると、海沿いに寿司屋が一軒あるよと教えてくれた。教えられたとおりの道を行くと、その寿司屋の看板があった。ひっそりと陰気な店である。
ひっそりと戸をあけると客の姿はなく、老人夫婦が退屈そうにテレビを観ている。
店の壁やまわりの棚にダルマとかヒョータンの絵とか亀の甲羅のミニチュアとか古ぼけた水仙の絵などまったく何の脈絡もなく並べ飾られている。ここは本当に寿司屋なのか?古道具屋ではないのか?しかしさらによく見るとツケ台があってその先にわずかに魚の切り身の入ったケースが見える。
「コンバンハ」と言って入っていったが返事はなかった。
しかし聞こえたようで面倒くさそうに親父が立ち上がった。「今日は何がおいしいですか」と親父に聞くと「ウチは全部おいしいよ」とえらくぶっきらぼうに言った。
とりあえずビールとそのつまみに刺身を注文。
ここらあたりの魚があればうれしいな、と思ったがへんに聞くとまた少々お怒りの混じった声でこれしかねえよ、などとつっけんどんに言われそうなので黙っていた。マグロ、イカ、サヨリなどが出てきた。

 

(本文P.9〜11より引用)



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