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 石を積む人
著者
エドワード・ムーニー・Jr./著 杉田七重/訳
出版社
求竜堂
定価
税込価格 1470円
第一刷発行
2004/10
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ISBN 4-7630-0435-2
 
彼は、不器用に、ただひたすらに、愛する人との約束を果たそうとした。
 

本の要約


みなから「ストーンマン」と呼ばれた、人生の盛りを過ぎたひとりの男。彼は、不器用に、ただひたすらに、愛する人との約束を果たそうとした。あふれてくる、温かい涙と、温かい感情。石をひとつずつ積むように、時間を重ねた夫婦の物語。夫婦間、世代間において、自分の生き方や愛し方を改めて考え、変わるきっかけになる作品。


ストーリー 

残りの人生でやり残したことをやろうとした、ひと組の仲睦まじい老夫婦。
妻のアンは言った。「やりかけたままの石の塀を完成させてちょうだい」
妻との約束を果たすため、ジョーゼフは思うように動かない体で、ひとり石塀を作る。そんなある日、アンが倒れた。余命いくばくもないことを、戸惑いながらも受け入れる夫婦。
アンを安心させるため、長年折り合いの悪かった息子ポールと5年ぶりに会い、関係を修復しようとするジョーゼフ。孤独な少女シャノンとの出会いも、アンの最後の人生に花を添えるものだった。
夫ジョーゼフを残したまま、とうとう死を迎えたアンは、部屋のあちこちに夫に宛てた手紙を残す。それは、伝えそびれたジョーゼフへの、感謝の言葉や思いやりの言葉といった、愛のメッセージ。ひとり残され孤独感を募らせていたジョーゼフは、妻の手紙にどれほど救われたことか。アンへの愛を再認識するジョーゼフ。
ある日ジョーゼフは、ティムとアイザイアという少年ふたりに襲われる。裁判で有罪になったふたりを救うため、石塀作りを手伝ってもらうことにした。アンとの約束はなんとしてでも果たさなければならない。自分には時間がない…。
ぎくしゃくと、しかし確実に心を通わせながら、ジョーゼフはシャノンとティムと触れ合っていく。しかし、アイザイアとはなかなか心を通わせられない。それでも石塀は次第にできあがっていった。
石塀を作ることでアンが伝えたかったこと、それは、若い人たちに優しい手を差し伸べてほしいという、愛情溢れる切なる願いだったのだ。
アンの愛は、残された者たちを救うのだろうか。ジョーゼフは、妻との約束を果たせるのだろうか。そして、少年たちにジョーゼフの思いは通じるのだろうか…。

―― 石をひとつずつ積むように、やさしい時間を重ねた、夫婦の物語。

 

エドワード・ムーニー・Jr

マサチューセッツ州で生まれ、カリフォルニア州のタスティンで育った。モンタナ州立大学とカリフォルニア大学リバーサイド校を卒業後、システムプログラミングの仕事を経て、一九八八年よりハイスクールの教師として働く。今でも、より使いやすいコンピューターを見つけ、学生たちにやさしく教えることに熱意を燃やしている。
 現在はカリフォルニアに妻、五人の子どもと暮らしている。とにかく旗が大好き。スカンジナビアの旗や、由緒あるアメリカの国旗を、家に数本所有する旗ざおにしょっちゅう掲げ、ときに近所の人々に不思議がられている。地図、旅行、読書、執筆、コンピューター、ホームページの作成、キャンプなど、多彩な趣味を誇る(無類のチョコレート好きとしても知られている)。

 杉田七重(すぎた・ななえ)
東京生まれ。東京学芸大学教育学部国語科卒業。訳書に『もしも、あなたの言葉が世界を動かすとしたら』(M・ウィートリー著)、『あなたは、あなたであるから素晴らしい』(W・ドライデン著)(以上、PHP研究所)、『サハラに舞う羽根』(A・E・W・メイスン著、金原瑞人と共訳、角川書店)、『人類最高の発明アルファベット』(J・マン著、金原瑞人と共訳、晶文社)、『愛と成功の確率』(G・ベア著、田中亜希子と共訳、集英社)などがある。



オススメな本 内容抜粋

プロローグ

春になると、パイン・マウンテンにも、土曜日ごとに大勢の人間がやってくる。
長く閉め切っていた週末のバンガローを修繕し、新しい風を通しにくる者。雄大な岩の斜面にうっすら残る雪をみにくる者。
なかにはここに、過去をさがしにくる者もいる。
遠い昔の謎が、今日こそはきっと明らかになると信じて。
そんな土曜日の一日。
ある家族を乗せたミニバンが、ミル・ポトレーロと呼ばれる細く険しい山道を走り、いくつものカーブを曲がりながらやってきた。
自分たちの過去につながる、一軒の家をみにきたのだ。
「ティム、坂を登るまえに、ここでなにか飲んで行きましょう」
若くてかわいらしい女性が運転席の夫に声をかけた。髪を編んでアップにまとめている。
「子どもたちも眠ったことだし、車で通りすぎるだけにして、さっさと帰らないか?飲み物ならウッズ湖の売店でも買えるだろう」
夫はこたえた。彫りの深い二枚目といった顔立ち。手をみれば肉体労働で生計を立てている のがすぐわかる。
「でも、やっぱり車を止めてさがしてみたいの……」
「またかい?なにをさがすって言うんだい?何度もこうして足を運びながら、きみ自身なにをさがしているのか、さっぱりわかってないくせに!」
ティムの顔が不機嫌になった。
「あの言葉には、きつと大事な意味が隠されているのよ。あなただってグランパがどんな口調であれを言ったか、おぼえているでしょ」
シャノンは窓の外に目をやった。怒っていた。
「ぜったいにそう。わたしにはわかるのよ」
「よし、それじゃあこうしよう」ティムが右手を上げて言った。
「ハンドルから手を放さないで!この道は怖いんだから!」
シャノンは緊張してシートに背を押しつけた。
「おいおい、こっちはこの道を千回も運転してるんだぜ。それにほら……今年はガードレールまでできてるぜ」
にやにやしながらからかった。
「で、どうしようって言うの?」ちょっとほっとしてシャノンがきいた。
「今日はつきあう。でもこれが最後だ。もし今回きみのさがしているものがみつからなかった
ら、これからはこっちの言うとおりにしてもらう。いいかい?」
シャノンはまた窓の外に目を向け、後ろに飛び去っていく木々をみつめた。たしかにもう潮時かもしれない。ティムもよくがまんしてつきあってくれたと思う。でもきっぱりあきらめることを考えると、胸のなかがざわざわしてくる。
「シャノン?おい、いいんだな?」
ティムが声を落としてきいた。後部座席で、子どものひとりが目を覚ましたのだ。
「なにをさがしてるのか、自分でもわからないの」シャノンも声を落とした。
「でも、あの言葉には、ぜったい重要な意味がこめられていた。それだけはわかるの。あきら
められないのよ」
「いつまで続ける?十年以上もここに通い続けているんだぜ。おれだって、できれば知りたいさ。けど、もう限界だよ。あとはいい思い出として、大事に……」
ティムは最後まで言わずに、下唇をかんだ。
「それじゃあ、こうしましょう。だれもいなかったら帰る。そしてもう二度とここには来ない」
シャノンが提案した。言ってしまってすぐ胸が痛くなったが、ティムの言うことが正しいこともわかっていた。遅かれ早かれ、いつかはおしまいにしなければならないのだ。この世には、そっとしておいたほうがいい謎もあるのかもしれない。「それじゃあ、これで決まりだな?」
ティムが右手を差し出した。
「お願いだからハンドルから手を放さないで!」

(本文P.13〜15 より引用)

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