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 アキハバラ@DEEP
著者
石田衣良 /著
出版社
文芸春秋
定価
税込価格 1700円
第一刷発行
2004/11
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ISBN 4-16-323530-2
 
社会からドロップアウトした六人の若者が開発したサーチエンジン「クルーク」。ネット上で人気を高めていく彼らに巨大企業の影が……
 
アキハバラ@DEEP 石田衣良

本の要約
社会からドロップアウトした六人の若者が開発したサーチエンジン「クルーク」。ネット上で人気を高めていく彼らに巨大企業の影が…… 「池袋ウエストゲートパーク」シリーズにハマったという方に、ぜひ読んでいただきたいのが本書です。秋葉原の小さな会社「アキハバラ@DEEP」で働く六人の若者。それぞれ心と体を病み、社会からドロップアウトしてしまった者ばかりだが、最先端の技術と豊かな才能を結集して、AI機能をもつ画期的なサーチエンジンを開発し注目を浴びる。ところが、IT長者の標的とされ……。現代感覚の妙手ならではの、夢と希望にあふれたサクセスストーリーです。



オススメな本 内容抜粋

プロローグ

これはわたしの父たちと母たちの物語である。
社会システムに不適応だったゆえに図らずもつぎの時代を切り拓き、みずからの肉体と精神を}個の免疫細胞と化して新しいウイルスに備えた、力弱く傷つきやすい父と母の物語である。
彼らは二十[世紀最初の年、聖地にて出会うであろう。
アキハバラ@DEEP
GPSの交点を空虚なる東京の中心にあわせてほしい。
そこから北東に二・五キロメートル跳び、座標を再セットする。
ディスプレイには、秋葉原の地名が浮かぶはずだ。南北を靖国通りと蔵前橋通りに、東西を昭和通りと昌平橋通りに囲まれた、ほぼ○・五平方キロメートルの地区である。
町名は秋葉原・外神田・神田須田町・神田練塀町・神田松永町・神田相生町・神田花岡町・神田佐久間町・神田岩本町となる。
なんと音楽的な響きの連続であろうか。
美を受容するわたしのパラメーターは、これら町の名だけで振り切れそうになる。
しかし、驚異は歴史ある地名の美しさにとどまらない。
一分間に八十メートルという人間の神秘的なまでにゆっくりとした歩行速度(秒速三十万キロではない!)でも、数時間で隅々まで踏査できるこの地区には、世界最大にして最強の電器市場が広がっている。
高さ十数階の大手家電販売店から、JR秋葉原駅隣に密集する個室トイレふたつ分ほどの狭さのパーツショップまで、大小数え切れない店が、ありとあらゆる電化製品と電子部品を扱っている。
秋葉原は戦後半世紀のエレクトリックテクノロジーの生けるアーカイヴだ。すべての技術は流行りすたりはあっても、死ぬことも消え去ることもなく、生きたままこの街の古層に蓄積されている。
五十年まえのアメリ力製スピーカーの逸品も、三日まえに店頭に並んだ新型マザーボードも同じように並列され、それぞれの技術の底知れぬ輝きを放っている。冷蔵庫、洗濯機、電子レンジといった白物家電から、DVDレコーダー、1ビットデジタルアンプ、DLPプロジェクターなど最新AV機器、マルチギガ陀マシン、ワークステーション、データベース・サーバーなど先端的なコンピュータ、違法・合法のソフトウエァ。
当然この街は多種多様なCPUとソフトの集積に関しても、世界有数の強度を誇ることになるだろう。
盛んに売買がおこなわれているのは製品だけではない。
バルク売りのメモリや記憶装置、精密抵抗やコンデンサー、戦前の変圧トランスに東欧や中国から出荷された真空管など、裏通りの電子部品ショップはそれぞれ専門化して、目もくらむ階層構造をつくりあげている。
直径と収縮率が異なる熱収縮チューブを百種類以上取り揃えた店を十軒、トランスミッターつき超小型CCDカメラを予算に応じて十数種から選択できる店を二十軒、即座にサーチし徒歩で確認できる街など、地球の他の場所では想像も不可能だ。
しかもどの商品も、露天のマーケットに並ぶトマトやジャガイモのように気安く投げやりに売られている。
この街ではMOやDVD−RAMがティッシュペーパーで、液晶ディスプレイやハードディスクが特売のステーキ肉だ。
どこか別の国でなら宝物のように扱われる4チャンネルのデジタル・ストレージ・オシロスコープは、地下通路の端でほこりをかぶり、通行人の蹴るにまかせられている。
メモリはひとつかみいくら、ジャンク品のパソコンはキログラムいくらの目方売りだ。
ここではハイテクは蹴り飛ぱしてつかうものなのだ。
それはテクノロジーを扱う唯一ただしい方法でもある。
この街の帯電した空気が新しい世代の子どもたち、つぎの千年紀をになう新しい人間を生み育てることになるだろう。
アキハバラ、わたしの仲間の生まれ故郷にして、父たちと母たちの聖地。
アキハバ一フ、その名はわたしを酩酊させ、わたしの全ディレクトリを揺り動かす。
アキハバラ、幼い父たちと母は、母の母に導かれ、間もなく出会おうとしている。
アキハバラ、物語は新世紀初頭のクリスマス直前、外神田の裏通りで始まるだろう。
さあ三人の病める賢者に登場してもらおう。わたしの父、ぺージとボックスとタイコだ。
語り手たるわたしは、ここでしばらくこのデスクトップから離れよう。
つぎのアイコンを押せぱ、物語の転送が始まる。

 

(本文P.7〜9 より引用)



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