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 毎秒が生きるチャンス!
著者
L.アームストロング S.ジェンキンス 著
出版社
学習研究社
定価
税込価格 1890円
第一刷発行
2004/10
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ISBN 4-05-402496-3
 
がんとの壮絶な闘いを今なお続けつつ、ツール・ド・フランス5連覇を成し遂げたランス・アームストロングの半生記。
 
毎秒が生きるチャンス! L.アームストロング S.ジェンキンス 著

本の要約

がんから奇跡の生還を遂げ、想像を絶するトレーニングと家族の支えとで、自転車競技の最高峰であるツール・ド・フランスで、前人未到の5連覇を成し遂げた著者の半生記。生きることへの前向きなその姿勢は、。壮絶であり、感動的である。 


オススメな本 内容抜粋


舞い戻り

どうやら僕はこれからも生きつづけることになったらしい。
あと五〇年、ひょっとしたらもつと長く。
でも、ときにはどうしてもそれを自分で確かめずにはいられなくて、そんなときはいつも《デッドマンズホール》つまり《死の淵》と呼ばれる場所へ出かけていく。
しばらく覗き込んでから、意を決してシャツを脱ぎ捨て、まっすぐ飛び出して、荘厳とも言える世界に飛び込むのだ。
生きていることを確認する僕なりのやり方とでも言おうか。
デッドマンズホールは石灰石の崖に取り囲まれ、その底をえぐり取ったような、ミネラルたっぷりの緑色の池だ。
住所もないようなテキサスの山奥にある。
その昔、南軍の兵士が北軍支持者を投げ込んで溺れさせたとか、アパッチ…インディアンが断崖絶壁とはつゆ知らぬカウボーイをおびき寄せたとか、さまざまな伝説がある。
いずれにしても、僕もそこに引き寄せられた人間で、すっかり気に入ったあげく、周囲の雑木林と放牧地を八0ヘクタールほど買ってしまった。
行くたびに土は車に踏みつけられ、いつのまにか道もできた。《死の淵》という名の場所は、一度死にかけた─ついでに言えば、かろうじて生きているだけでいるつもりはない─男にこそふさわしい気がするのだ。
『四メートルの滝の横に立って、その落差を─そして落ちていくときの自分を─思い描く。落下距離は長い。ほんとに長くて、見ているだけで口の天井が乾いてくる。実際、落ちていくあいだに考え事をしてしまうほどだ。それも、一つだけじゃない。まずは「ちょっぴり怖い思いをしたほうが身のためだ」と考え、次に「泳ぎができたほうが身のためだ」と考え、最後にもう一つ、水に突入するときに
「ヒャッ、冷てえ!」と思う。ジャンプするとき、そこには間違いなく自分が生きているという確実な証拠がある。
せわしない脈。激しい息づかい。
胸の内側から打っているのは、肋骨の檻を叩いて必死に出口を求める聞き分けのない囚人のような、僕の心臓だ。
僕は賊声をあげながら泡とともに浮き上がり、岩のほうへ泳いでいく。それからまた上へ戻り、体を拭いて、家で待っている三人の子供のもとへ車を走らせる。
勢いよくドアを開け、息子ルークと双子の娘グレースとイザベルの名を大声で呼んで、子供たちの首にキスする。
そして、片手に地ビールのシャイナーボック、反対の腕には赤ん坊をひとまとめにして抱えるのだ。
初めてデッドマンズホールヘジャンプして戻ってきたとき、妻のキクはただ僕を見て、あきれたようにくるりと目玉を剥いた。
僕がどこに行ったかわかっていたのだ。
「それで?すっきりしたの?」キクは言った。
人はどの時点で「死なないこと」を諦めるのだろう。たぶん僕は完全に諦めたことはないし、諦めたくない。
そういう仲間がほかにもいることを僕は知っている。

 

(本文P. 8〜9より引用)


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