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 熱情 田中角栄をとりこにした芸者
著者
辻和子/著
出版社
講談社
定価
税込価格 1575円
第一刷発行
2004/09
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ISBN 4-06-212594-3
 
角栄の物心を支え、角栄がすべてを許した芸者が初めて明かす「生(き)の角栄」!
 

本の要約

東京・神楽坂の超売れっ子芸者が、角栄に見初められ、人生を共にすることを決意。二男一女をもうけ、誰よりも身近で寄り添ってきた大宰相との日々と女の意気地を語る!

この本に載せるおとうさんの写真を探すために、地下の倉庫に下りていったとき、思いがけないものを見つけました。昭和30年と記した日記帳です。(中略)わたしは懐かしさでいっぱいになりました。ふたたび戻ることのない日々が、そこにあります。わたしのまわりの懐かしい人々、おとうさんとわたしの生きた日々がよみがえります。けれど、おとうさんはもういません。一陣の風のように去っていきました。そして、わたしは、ああいう人にはもう2度と会えないだろうと強く悟りました。大きな人でした。――(本文より抜粋)



オススメな本 内容抜粋

初めて会った日

わたしがおとうさん・田中角栄に初めて会ったのは、戦後まもない昭和二十一年(一九四六年)の秋のことでした。
その頃、わたしたちは空襲によって東京・神楽坂の芸妓置屋・金満津を焼けだされ、女将であり、養母でもある辻むらと二人で、近くの原町で二階借りをしていました。
戦火ですっかり焼け野原になった神楽坂ですが、戦後の復興は意外と早く、終戦の年のうちにも、待合が仮小屋のようなかたちで営業を再開するようになりました。
当初は待合が桃山、菊川、広川の三軒、残っていた芸者衆も、あやの助姐さん、けい子姐さん、いのじ姐さん、一郎姐さん、なな子さん、そしてわたし(円弥)の六人にすぎませんでしたか
ら、わたしにもお呼びがかかって、夕方になると神楽坂のお座敷へ通っていました。
年増のいのじ姐さんの置屋でお化粧をさせてもらって、お座敷に出かけるのですが、夜になると、あたりには街灯もないので、まっ暗闇です。
提灯で足元を照らしながら、草ぽうぼうの中をお座敷まで歩いていきました。
戦後、まっ先に復興したのは神楽坂でも有数の待合だった松ヶ枝ですが、まだ桃山という屋号で仮営業だった頃のことです。
そこのお座敷に呼ばれたのがおとうさんとの最初の出会いだったのですが、なにしろ大方の芸者衆がまだ疎開先から帰ってきておりません。若い子といったら、わたしとなな子さんぐらいしかおりませんでしたから、わたしが呼ばれたのだと思います。
でもそのときは、一対一ではなく、おとうさんが経営する建築会社で設計図を描いている中西さんという方とご一緒でした。
なんでも、おとうさんが新潟から出てきてすぐの頃にお友だちになり、かつては鶯谷に二人で一つ部屋を借りて住んでいたこともあったとか、そんな話をしていました。
「おれ、選挙に落ちちゃったんだ」
おとうさんは、その年の四月に行われた戦後第一回目の総選挙に出身地の新潟のほうで立候補したけれど、あえなく落選してしまったと言っていました。
でも、すでに戦後の土建ブームがはじまっていて景気がよかったせいか、おとうさんの顔からは暗いものがまるで感じられませんでした。
そのときにはもう髭を生やしていて、おとうさんの髭はちょび髭と思われていますが、正確には横にびっしりと生えた立派なお髭でした。


神楽坂の待合

神楽坂は戦時中も、なんやかやと続いておりましたが、戦後の食料不足の折にはお客さまみずから、お米だの食料品を携えてお座敷にお上がりになりました。
うお徳さんが再開するまでは、お料理はいわば家庭料理といった類のものを、それぞれに手づくりしてお客さまにお出ししました。
なにしろ、芸者衆も少ないですから、いらっしゃるお客さまの数も限られておりました。
それでも、東京にも京都と同じく、「一見さん」的なものはありました。
いわゆる「ご紹介」のお客さまでなければ、お座敷に上がることはできなかったと思います。
それと、言葉に誤解があるかもしれませんが、身なりのご立派な方、自然「社長さん」クラスのお客さまがほとんどだったのです。
ですから、柄の悪いお客さま、または金離れのいいお客さま(ヤミ屋さん)といった類のお客さまにはお目にかかったことはございません。
きれいごとと言われようが、お金を儲けるなんてことを考える余裕さえありませんでした。
それに神楽坂は、花柳界の事務所といえる検番を中心に、料亭、待合、置屋、芸者衆の統率がとれていたといっていいでしょう。
何も考えず、一日一日を生き抜いていただけなのです。

 

 

(本文P. 13〜15より引用)


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