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 ミサコ、三十八歳
著者
群ようこ/〔著〕
出版社
角川春樹事務所
定価
税込価格 円
第一刷発行
2004/06
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ISBN 4-7584-1033-X
 
ミサコ、38歳、独身、文芸誌の副編集長。私の幸せはどこにあるのだろう――。 働く女性の真実(リアリティ)と切実さを、鋭くかつ暖かい眼差しで描く書下ろし長篇。
 
ミサコ、三十八歳 群ようこ

本の要約

ミサコ、38歳、独身、文芸誌の副編集長。私の幸せはどこにあるのだろう――。 働く女性の真実と切実さを、鋭くかつ暖かい眼差しで描く書き下ろし長篇。
ミサコは最近、心身とも少々疲れ気味。作家とのつきあい、原稿読み、資料集め、部下の面倒などなど、仕事中心の毎日。それに加え、一人暮らしの父親の心配に妹の結婚問題……彼女の心のよりどころは、愛猫のあーちゃんだけ。 
女・38歳微妙な年頃なのだ!!



オススメな本 内容抜粋

タキタ、ミサコは通勤のために、自宅マンションの玄関から一歩出たとたん、
「さあ、やるぞ」
というやる気よりも、
「あーあ」
という脱力感に襲われる。前はそうではなかったのに、三十八歳になったとたんに、そうなったような気がする。
二年前に今のマンションを買ったことも、ちょっぴり後悔しはじめていた。
ここは勤めている出版社からたった二駅しか離れていない。仕事が忙しくなって、通勤の時間も惜しくなり、
深夜のタクシー代を考えたらと、たまたま新規分譲で売りに出ていたのを買ったのだが、ここ には安らぎなどほとんどない。
目の前には大きな道路が通っているし、よくいえば都会的だが、人が生活している雰囲気はない。そのときは仕事に燃えていたので、とにかく仕事中心で考えていたのだが、このところ何だか疲れてきた。
会社と住まいの行ぎ帰りだけでいいと思っていたのだが、これでよかったのかと、自問自答する回数が多くなった。昔、髪の毛が抜けはじめたおじさん社員たちが、椅子に座って、
「はあ〜」
と情けないため息をついているのを、呆れて見ていたが、その気持ちがよーくわかるようになった。
心の救いは飼っている茶トラネコのあーちゃんだけだ。
あーちゃんがいるからこそ、この子のためにがんぽろうという気にもなる。別にネコには進学も就職もないが、家にいてくれるというだけでも心が和む。引っ越してきた直後の真夜中、マンションの入り口の植込みに捨てられていたのを見つけて、最初は貰い手が見つかるまでのつもりだったのだが、三日、五日と飼っているうちに情が移って、手放せなくなってしまった。
目やにで半開ぎだった目も、汚れたお尻も、獣医さんのおかげでだんだんよくなり、世界でいちばんかわいいネコになってしまった。
去勢はしたとはいえ、マンションの五階で大丈夫かと思ったが、問題もなくあーちゃんは暮らしている。
ただミサコの仕事が不規則なので、甘えたいとぎに甘えられないストレスが食欲に転化しているのか、とにかくものすごく食べる。捨てられていたときは、
「大きくなるのかしら」
と不安になるくらいか細かったのが、二年後の今では、立派なおやじといった風体になった。
「だんな、老けてますね」
耳元でささやくと、あーちゃんはいいことをいわれていないとわかるらしく、
「うえーっ」
と不愉快そうな声を出す。
「うそうそ、あーちゃんはとってもかわいいよ。いちぽーん、かわいい」
そういって頭を撫でてやると、ごろごろというかわいい声ではなく、「んごお、んごお」
と腹の底に響くような声を出して喜ぶ。
「かわいいよ」
と抱っこしてやると、五・八キ官の体重がずっしりとこたえる。ミサコは身長が百四十八センチ、体重が四十ニキ・なのである。獣医さんからはダイエットをしたほうがといわれているが、ふだん、部屋でずっと一人だし、その上、食事制限までさせたらかわいそうなので、「そうですねえ」
といいつつ知らんぶりしているのだ。
「あーちゃんと、ずーっと一日、ぽーっとしていられたらいいなあ」

 

 

(本文P. 3〜5より引用)


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