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 反省文ハワイ
著者
山口智子/著・写真
出版社
ロッキング・オン
定価
税込価格 2100円
第一刷発行
2004/06
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ISBN 4-86052-040-8
 
山口智子のハワイ本。 紀行文第2弾!
 

本の要約

サーフィンもリゾート・ホテルもショッピング街もなくたって、ハワイへの旅にはもうひとつの道がある。本当のハワイに出会いたい。そう願い続けた彼女が綴った、ハワイへの恋文。『私が、これから記そうとしているのは、ハワイへの、心からの反省文だ。私がずっと長いこと犯してきた、たくさんの誤解、たくさんの失礼。ハワイよ。本当にごめんなさい。そして、ハワイよ。この書を綴る言葉は、あなたへの尊敬と感動と憧憬と、もしかしたら愛のようなもの。』(―本文より―)



オススメな本 内容抜粋

打ち寄せる波音が近づいて来た。
薄闇のむこうには、カワイハエ(kawaihae)の海が朝を待っている。
男達の列、女達の列。松明の灯に促され、それぞれの行く先が分かれ出した。
男達が向かうのは、ひとかかえほどの石を何千何万と積み上げて作られた、大きな要塞のような黒い塚。
女の列が向かうは、もう一段海寄りの、少し小ぶりの同じく石の神殿跡。
まだ誰も口を開かない。
海風が涼しく、ここでの私のへんてこな違和感を、ころころとくすぐっていく。
ただ、待つしかない。
女達がたたずむ神殿前から、男達が向かった神殿を見遣ると、鯨のような巨大な塊が、薄闇の中に、より黒ぐろと浮かんで見える。
ひとつ、ふたつ、みっつと、松明の炎が鯨の背中の定位置に落ち着いていく。どうやら支度は整ったようだ。
低い太鼓の拍子が刻まれ、鯨の背中のてっぺんに、ぽつんと小さな影が現れた。
夜から朝へ変わりゆく、もっとも清浄な静けさの中、黒い塚のてっべんから発せられた低音の高貴な声が、静かな海へと延びてゆく。
昇る太陽を迎える祈りの唄、『チャント』だ。
声の主こそ、この儀式全てを取り仕切り、ハワイの島中から集まった人々の厚い信望を担う人物。
そして、私のようなわけの分からぬやからでさえ、彼らの大切なセレモニーに招き入れてくれた懐深き入物。
ジョン…ケオラ・レイク(John Keola Lake)。
彼との出会いは、「ホントウのハワイ探し」の前に藍ちはだかる分厚い扉を、開く鍵だったのかもしれない。


ハワイの理由

アロハ、フラ、ワイキキビーチ、サーフィン、ムームー、ハイビスカス。
誰しも一度は憧れるであろう、トロピカルドリンタ片手のサンセットタイム。
なにやら、力タカナ攻撃の南国熱に、私は今まで、迷うことなく浮かされてきた。
輝く太陽、蒼い海、ウクレレの調べ、椰子の木陰、ネコも杓子もそれがハワイ。
それ以上でもなく、それ以下でも
ない。現実から逃げてみたくなったら、びゅんと飛行機に乗って南の楽園へ。
必要な時に、そこに在ってくれさえすればいい。
癒してくれたお礼さえ、そういえば、言ったこともない。
思えば、ハワイが人間だとすれば、彼の(彼女の)人格や気持ちなど、推し量ったこともない。彼がどう生まれ、育まれ、どんな慈し
みや仕打ちを受け、そして、どう変わっていこうとしているのか。
上口同飛ぴ込み選手のように、]気に彼の懐にダイブし、その腕に抱かれ、無償のエネル
ギーを項いておきながら、私は一度たりとも、ハワイの心に触れようとしなかった。
なんだか、無能な暴君みたいな悪行だ。
シャツも短パンも脱ぎ捨てて布一枚をまとい、夜明けの儀式の人の波に混ざり、ヘイアウに向かう。
その時でさえ、まだ私は、ディズニーランドのジャングルクルーズでボートに押し込まれた見物客と、大差はなかったのかもしれない。
夜明けの儀式からさかのぼること、ひと月。
二〇〇二年、六月。
ハワイ、オアフ島に降り立った。
十数回目のハワイ訪問だが、今回は、CM撮影の仕事でもなく、のほほんと過ごす休暇の旅でもない。
もう二年も続けている「Letter彼女の旅の物語」という旅の映像作品。
その最終章の舞台探しが一番の目的だ。
初めて企画から携わった全六編契約のこの作品は、今同で、とりあえずのピリオドを打つことになる。
人様のお金をもとに作られた、予算も期間も限られたものなのだから、いつかは、きちんと、幕を下ろさなければならない。旅に終着地点などあるはずがないと反論し、あがいてみたところで始まらない。
ここまで続けてきた旅が、旅人をどう変え、この作品の最終地点で、何をどう感じるか。「彼女の旅」が、どういう結末を得るのか。
それに相応しい場所は、いったいどこなのだろう。
私はこの数カ月、ずっと頭を悩ませてきた。
トルコ、イベリア半島、アイルランド、米国ルイジアナ、南米チリ。
これまで辿ってきた道のりは、不思議な何かにぐいぐい引っ張られながら、西へ西へと続いてきた。
それぞれの国々で、ひとつの謎を解きほぐそうとすれば、その糸は、自ずと進むべき方角へと導いてくれた。
東と西が溶け合う国トルコ。その小さな村で奏でられた旋律は、北スペインのバグパイプに繋がった。
アイルランドの妖精物語は、新大陸へと運ばれた。
地の果てを見たいという思いは、南米大陸へ、そして遥か氷の世界へといざなった。
そして、最終章の地を求め、南米大陸の西の端から太平洋の大海原を仰いでみた。
その先には、もうずいぶん前に旅疏った故郷H本が霞んでいる。
出発地点であった東京は、もはや、映画「ブレードランナー」のファーストシーンさながらに、もう日も射さぬ、混沌とした巨大ビルの密林地帯。怪しく膨れEがったスモッグシティヘの焦点は、今や、うまく定まらない。

 

 

(本文P.10〜13 より引用)


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