名作『ミシン』から４年。待望の続編がとんでもない傑作として誕生した。かつてないスピード感＆うねるようなグルーヴ感。圧倒的なライヴの臨場感が読む者を興奮させる、前代未聞のパンク・ロック小説の登場だ！

ミシン。
貴方が望むように、竜之介がいなくなったこの世界から、私は貴方を抹殺しました。
竜之介の追悼ライヴの最後で貴方は「これが最後だよ」とオーディエンスに向かって眩き、デビューシングルである『ロリータ・デス』のギターのソロから入る激しい前奏が始まると、マイクスタンドを蹴り上げ、それを客席へと放り投げました。
元々、メロディがあるのかないのか解らない死怒靡瀉酢のシンプルながらも最高に荒くれたパソク・チューン。
歌いだしこそ合ってはいたものの、貴方のシャウトと演奏はすぐにどんどんとずれていき、しかしそんなことはお構いなしに、ミシン、貴方はステージに這い蹲り、聞き取れぬ歌詞を咆哮し続けていきました。
サビのリフレイン、これを歌い終えれば、ライヴは終了。
しかし、終わるのはライヴだけではないのです。
貴方と私の間に交わした約束。
貴方が用意した誰にも知られてはならぬ エンディングに持ち込めなけれぽ、このライヴは貴方にとって、そして私にとっても意味をなさないのです。
最後の曲が終わったら、ステージで私の持つ玩具のようなキティちゃんの絵が入ったピンクのギターのボディで、ミシンは自分の後頭部を殴れといいました。
ぎちんと、息絶えることを確認するまで、叩きのめして欲しいと貴方は私に懇願しました。
貴方が私のことを本当に好きなら、その手で私を殺して……。
私に迷いはありませんでした。
貴方が真実、望むことならば、一番大切な貴方を撲殺することに何の罪悪感も憶えない。
やがてミシソは最後のフレーズを叫び終えました。
シンバルやタムを滅茶苦茶に叩ぎながら、曲のラストを盛り上げようとするドラムの振動、実はギターが弾けない私の代わりに陰でギターを弾いてくれているギタリストのディストーションをかけまくった轟音、コード進行なんて全く無視した、只、大ぎな音が出したいだけのべースの野太いノイズ。
それらの音が暫く重なりあって、【種の卜ランス状態が会場を支配します。ベースのアランがドラムのスエキチと眼を合わせます。スエキチは頷き、シンパルを激しく何度も叩き始めました。これはアドリブを切り上げて、そろそろプレイを終了させようという合図です。
私はそのシンパルの連打と同時に、ステージの中央に駆け寄りました。ミシン、貴方はマイクを右手に辛うじて握り、全身で息をしながら傭せに倒れていました。もはや、全てのエネルギーを出し尽くしたかのように。
私は邪魔なのでアウトプットジャックからシールドを抜き取ると、そんな貴方の身体にまたがり、貴方の頭を目掛けて、持っていたギターのボディを振り下ろしました。
ゴツン……。
鈍い、不吉な音を聞いたような気がします。
客席の最前列から凄まじい悲鳴があがりました。
貴方の身体は、小さく痙攣していました。
こんな程度じゃ、多分、人は死なない。
私は更に貴方の後頭部を何度も激しくキティちゃんのギターのボディで殴りつけました。
ネックが折れました。
ミシン、貴方の頭から血が勢いよく噴き上がり、その返り血を自分の顔に受けたことだけは、はっきりと記憶しています。……赤い……温かい…。
貴方は、やがて動かなくなりました。
─やったよ、ミシン。
そう思った瞬間、私の意識は遠のいていきました。
「緞帳、下ろせ！」「客電、点けろ！」
「客電はマズい。とにかく綾帳だ！」。怒号。誰かの、多分、複数だと思います、腕が私の身体を床に押し倒しました。
眼の前が闇で閉ざされ、ミシンの姿が確認出来なくなりました。
それから先のことは、まるで憶えていません。
どうやら、私は気を失ってしまったようでした。
眼が醒めると、薄暗い蛍光灯の光があり、私は自分が広い何もない簡素な部屋のベッドの上に寝かされていることを悟りました。
ここは警察の中なのだろうか。
それとも病院の一室なのだろうか。