序
アーサー王と円卓の騎士の活躍を描く中世騎士物語は、昔からずっと世界じゅうの人々を魅了してきた。
それというのも、アーサi王の物語は高潔な騎士道と・マンス、英雄と裏切り、そして輝く鎧の騎士と美しい乙女のストーリーだからだ。
アーサー王の伝説は無数にあるが、おおむねこういう内容だ。
昔々、英国にウーサー・ペンドラゴンという偉大な王がいた。
王は自分の死後に周辺諸国から王位を守るための手段を講じた。
わが子アーサーを守るために、マーリソという魔法使いをを呼び、自分が死ぬ前に、アーサーだけが王位を継げるような魔法をかけさせたのだ。マーリンは王の長剣を石に載せた鉄床に突き刺し、強力な魔法をかけた。
石にはこう刻まれていた。
この石と鉄床に埋められた剣を
抜く者こそ、英国の正当な
王位を継ぐ者である。
月日は流れ、アーサーはマーリンの庇護の元で成長した。
ウーサー王は老い、やがて世を去った。
王の死の話が広がると、列強や王位を狙う者たちはたちまち剣の石の前に列をなした。
誰もが渾身の力をこめて剣を抜こうとした。
だが、剣を引き抜ける者はひとりとしていなかっ
た。
アーサーは剣の魔法のことも、自分が王の血筋だということも知らずに育っていた。
ある日、馬に乗ってたまたま剣の石のそばを通りかかったアーサーは、巨大な剣岩に突き刺さっているのを見て、不思議に思った。
その剣が気に入ったアーサーは、誰のものでもなさそうに見えたので、なにげなく剣を抜くと、そのまま剣を持ち帰ってしまった。
ことの次第を知った人々は、アーサーこそが英国の王であることを知った。
やがて、アーサーはさらにすばらしい剣、エクスカリバーを手に入れることになる。
その剣は湖の乙女と呼ばれる妖精から授けられたものだった。
マーリンの言葉によれば、エクスカリバーの鞘は剣そのものよりも強力であり、剣が鞘にあるかぎり、アーサーはどれほどの傷を負おうと血を流すことがないという。
まもなく、アーサIは近隣の王国の美しい姫グウィネヴィアと恋に落ち、結婚した。
姫の父親は結婚祝いとして大ぎな円形のテーブルをアーサーに贈った。アーサーはそのテーブルを囲む椅子に世界中の偉大な騎士をすわらせようと考えた。
そうして、彼はサー・ガウェイン、サー・ガラハッド、高潔なサー・ランスロットら、二十八人の騎士たちを集めた。
その後、アーサI王と円卓の騎士団はともに戦い、多くの勝利をおさめた。
しかし、円卓の騎士を滅ぽす元となったのは、幻の聖杯の探索だった。キリストと使徒たちの最後の晩餐で使われ、さらに、十字架にかけられたキリストの体から流れる血を受けたとされる聖なるゴブレノトのことである。
聖杯を求める長くむなしい探索のために、アーサー王は多くの騎士を失った。
さらには、王妃グウィネヴィアをも最高の騎士といわれたサー・ランスロットに奪われることとなった。
ついに死を迎えることとなった時、アーサー王は、湖の乙女が住む神秘の湖にエクスカリバーを投げた。
湖の乙女は剣を受けとり、それを大きく三度振り、波間に消えた。
以上がよく知られたアーサー王の物語である。
この物語は広く知られ、世界中の人々に愛されてきたが、ひとつの伝説にすぎない。
アーサーの真実の物語は、もっと別の時代、もっと別の場所で起こったのである。
そうは言っても、真実のアーサーの生涯も、伝説に負けず劣らず波乱に満ちた、すばらしいものであった。
アーサーが実在するかどうかは、何百年もの間論議の的となっていた。多くの歴史家は、アーサーは実在したと考えている。
そして、アーサー王の伝説は 千年も前、暗黒時代と呼ばれる時代に生きたひとりの英雄の生涯から生まれたのだという。
イギリスにおける近年の考古学上の発見と、歴史における再評価とが、アーサ1の真実の姿に光を当てることとなった。
考古学上の証拠によれば、アーサーは実際にサルマティア人の騎士ウーサー・ぺソドラゴンと英国女性コーンウォールのイグレインとの間に生まれたことが分かった。
西暦一八三年にはローマ帝国の版図はアラビアから英国にまでおよんでいた。だが、ローマ人たちはそれだけでは満足しなかった。
さらに多くを……さらに多くの土地を、さらに多くの臣下を望んだ。
ローマに忠誠を誓い、いいなりになる民族を。
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